ウルトラマンオーブに登場した古文書『太平風土記』を翻刻して解説する記事です。今回は19話の戀鬼(紅蓮騎)について。
目次はこちら fukurami.hatenablog.com
【戀鬼(紅蓮騎)】
登場:ウルトラマンオーブ19話「私の中の鬼」
本文
〈1〉
〈2〉
出典:本編映像を加工して作成
翻刻
〈1〉
戦国の世にあひ愛でつゝも
引き裂かれし
ものゝふと姫ありけり
戀鬼はその怨霊にて
幸なる恋人をそねみ
真赤に燃ゆる甲冑に身をつゝみて
折々の婚礼に現れては
その花嫁を傷つけにけり
〈2〉
あらたかなる法師
その怨霊鬼を
石に鎮めける
爾来鬼はおのが
身の霊力を
人ひとの願ひ叶へる為に
使ひけると[なむ]*1
現代語訳
戦国の世に、互いに愛していたが引き裂かれた武士と姫があったという。
戀鬼はその怨霊で、幸せな恋人を妬み、真っ赤に燃える甲冑に身を包んで、時々の婚礼に現れてはその花嫁を傷つけたという。
あらたかなる法師が、その怨霊鬼を石に鎮めたという。
以来、鬼は自らの霊力を、人々の願いを叶えるために使ったという。
語句
- あひ 【相】 〔アイ〕〔接頭語〕❶(動詞の上に付けて)双方が同じ動作をする意を表す。互いに。一緒に。(小学館 全文全訳古語辞典)
- 愛でる〔他ダ下一〕め・づ〔他ダ下二〕(1)心がひかれ、いとしく思ったりかわいく思ったりする。愛賞する。愛する。(日本国語大辞典)
- そねむ 【嫉・妬・猜・嫌】 〔他マ五(四)〕自分よりすぐれているもの運のよいものをうらやみねたむ。嫉妬する。そねぶ。(日本国語大辞典)
- こいびと[こひ‥] 【恋人】〔名〕その人が恋しく思っている相手。現代では特に、お互いに恋しく思い合っている場合の相手をいう。恋愛の相手。愛人。情人。おもいびと。(日本国語大辞典)
- なむ ここでは、強意の係助詞であろう。「……となむいふ」の「いふ」が略された形。
解説
オーブ19話に登場した戀鬼(紅蓮騎)の来歴を物語るものとなっている。戦国の世、互いに愛していた武士(劇中では「武将」と呼んでいた)と姫が引き裂かれ、その怨霊が戀鬼なのだという。劇中でナオミの嫉妬に反応して友人の結婚式を襲ったように、幸せな恋人*2を妬んで婚礼を襲ったとある。その後法師に石の中へ封印されたというが、それが本編にも登場した「想い石」として有名になった石であった。その表面には「戀鬼在此」と刻まれており、シンが戀鬼の正体に迫る手がかりとなった。
この戀鬼はオーブが初出ではなく、コスモス18話「二人山伝説」に登場したものの同類ということになっている。そちらでは、戦国時代に対立する国の武将と姫が禁断の恋をしてしまい、やむなく自害。その怨霊は2つの国を滅ぼしたが、錦田景竜*3という侍によって封印されたという。封印の石は香野村に刀石として伝来したが、ダム工事によって爆破され、コスモスと戦うことになった。
オーブの方も概ねコスモス版に準拠しているが、恋人に嫉妬したり恋人を結びつけたりといった要素はコスモス版には存在しない。しかしながら、『太平風土記』の挿絵の男女はコスモスに登場した絵巻の男女を踏まえたものと思われ*4、内容の面でも女性(ナオミ、シノブ)の説得で戦意を失う点が共通している。良い再登場のさせ方だったと言えるのではないだろうか。
なお「紅蓮騎」の言葉の由来は、『完全超全集』の解説(p.36)によれば武士の異名であり、裸足で戦って騎馬を失ったことから、靴を供えると願いが叶うといういわれが生まれたという*5。劇中で想い石を紹介していた女性によれば供えられた靴を履いて相手のもとに赴くらしく、巨大化した戀鬼(紅蓮騎)はナオミのパンプスを履いている。
ちなみにこの『太平風土記』の戀鬼に関する頁は、『太平風土記』の来歴に関する重大な情報を含んでいる。まず、「戦国の世」と触れられている点。中国の戦国時代を差しているのでもなければ、いわゆる戦国時代を「戦国の世」と呼ぶのはその終結以後、すなわち織豊期より後と考えるのが自然である。また、この頁に限って、他の『太平風土記』とやや筆跡が異なっている。ここから、『太平風土記』が複数人により著された可能性、あるいは後からこの部分が書き加えられた可能性を指摘することができる。これ以上の詳しい考察は後に記す『太平風土記』解説編に譲るが、興味深い。
2020.08.09追記)『太平風土記』翻刻・解説シリーズを再度同人誌としてまとめました。現在BOOTHにて通販中です。詳しくはこちら。