ふくらみ

膨張し続けている

『太平風土記』翻刻・解読 (6) マガタノオロチ

ウルトラマンオーブに登場した古文書『太平風土記』を翻刻して解説する記事です。今回は24・25話に登場したラスボス・マガタノオロチについて。

目次はこちら。 fukurami.hatenablog.com

【禍岐大蛇/マガタノオロチ】

登場:ウルトラマンオーブ24話「逆襲の超大魔王獣」25話「さすらいの太陽」

本文

〈1〉
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〈2〉
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出典:ウルトラマンオーブ25話「さすらいの太陽」本編映像を加工

翻刻

〈1〉

八つ地脈の
交はる聖地にて
転生のとき
待つ最後の魔王獣
天のいかつちに
似たる矢
悪しき気を持ちて
蛇蘇らせたり

その魔物禍岐大蛇といふ
闇光風土水火
の邪悪なる力を
みな併せ持ちしゆゑ
かならすすへての星を
喰らひ尽くさむ

〈2〉

陽に向かひ
清浄の気を持ちしもの
蛇の邪気を阻み
鬼門となりたり

たとへ打ち砕かれしとても
彼の持ちたる聖なる力
悪しき物のうちに
ととまり続けむ
深く大地に根差し
邪気払ふことによりて
聖なる力
その土地を
守り続けるとなむ

現代語訳

8つの地脈が交わる地にて、転生の時を待つ最後の魔王獣。

天の雷に似た矢が悪しき気を持って蛇を蘇らせた。

その魔物は禍岐大蛇という。闇・光・風・土・水・火の邪悪な力をみな併せ持つので、必ず全ての星を喰らい尽くすだろう。

陽に向かって、清浄の気を持つものが蛇の邪気を阻んで鬼門になった。

たとえ打ち砕かれたとしても、彼の持つ聖なる力が、悪しき物のうちにとどまり続けるだろう。

深く大地に根ざして邪気を払うことによって、聖なる力がその土地を守り続けるという。

語句

  • (打ち砕かれ)……き〔助動〕〈連体形〉物語の現段階からみて、ある出来事がそれより以前に起こったことを表わす。(日本国語大辞典
  • とても……とて【二】〔接助〕仮定の逆接を示す。たとえ…としても。…ても。(日本国語大辞典
    逆説の「とて」に強意の「も」が付いたものか。

解説

ついに現れた最後にして最強の超大魔王獣!!!!!
ついに登場した『太平風土記』原本!!!!!!!
ついに明かされる『太平風土記』の真実……太平風土記は予言書だった!!!!!!

?!!??!?!?


というわけで最後の最後で明かされた驚愕の真実。歴史書とは……。気を取り直して本文を呼んでみると、まさに劇中の描写をぴったりなぞっている。

マガタノオロチは8つの地脈が交わる東京タワー地下に眠り、弾道ミサイル・スパイナーR1によって覚醒、東京を食い尽くさんとするばかりの勢いで全てを喰らった。しかしマガオロチが倒れた場所にあった神木が力を一部阻んだために生まれた一箇所の弱点をついて、オーブとジャグラーはマガタノオロチを倒すことができたのだった。

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太平風土記の挿絵とマガタノオロチの最期

思いの外、というかそのまんまである。マガタノオロチが倒される時なんか太平風土記の挿絵にそっくりである。やっぱり予言書なんだなーシンさん流石だな―などと無邪気に感心しては、本職歴史マンとして恥ずかしい。本当に予言書なのかを確認してみたい。とりあえず本文の文体を見る限りでは、これまでと同様に過去形と推測が入り混じり、時勢が怪しくなっている。これだけではなんとも言えない。

仮にこの記述が過去に実際に起こった出来事を記録したもので、24・25話の出来事はそれが現代にそっくり再現されたもの、だと考えてみよう。とすれば、マガタノオロチは古来からあの場所に存在したということになる。

しかし、その仮設は次の証拠によって否定される。『完全超全集』記載のあのオーブ10章構想である。第3章末尾(p.106)には次のような記述がある。

…魔王獣の力の根源は、蜂に例えれば女王蜂に当たる大魔王獣マガオロチが生み出している。マガオロチはモンスター銀河より飛来し、ひとつの惑星に寄生。そのエネルギーを食い尽くすと卵になって、他の惑星に移動する。いくつもの星がマガオロチに滅ぼされていた。

その卵(=マガ魂)が太陽性第三惑星・地球に飛来し、どこかの地中深く産み付けられた。マガ魂のエネルギーは地球のエレメントと結びつき、6体の魔王獣を誕生させた。ウルトラヒーローたちは、(中略)自らのエネルギーを使い封印することにした。…

モンスター銀河!マガ魂!知らなかった設定がいっぱい出てきたよママ。
6体の魔王獣とは、マガタノゾーア・マガゼットン・マガバッサー・マガグランドキング・マガジャッパ・マガパンドンのことである。すると、マガ魂はマガオロチということになるので、あっマガタノオロチいませんね……。
マガオロチは星をどんどん喰らう怪獣だったようで、なるほど本文の「かならすすへての星を喰らひ尽くさむ」とはそういう意味なんですね。

その後封印についてはどうなのかというと、次の資料から判明する。オーブ11話「大変!ママが来た!」でシンがコピーしてきたなにかの記事である。

玉響比売命とは何者か

玉響比売命 往昔巫覡也
為絶世紅君而
大蛇被魅其美貌而以拐比売
一人勇者封印 大蛇而
救比売 而張結界
爾来守続不入森也

 玉響比売命の言い伝え

 日本各地に伝えられている玉響比売命と考えられる伝承を総合すると概ね以下のようになる。

玉響比売命は絶世の美女であった。その美貌に魅せられた大蛇(文献によっては蛇、蟒蛇、遠呂智など様々であるがオロチと思われる)にさらわれてしまった。すると一人の勇者がオロチを封印し、玉響比売命を助けた。玉響比売命はオロチが復活できないよう勇者の力を借りて結界を張り、不入森(入らず森)を守り続け[…]玉響比売[…]は一体[…]玉響比[…」倒的に[…]話や歴[…]在とも[…]も証明[…]にあ[…]く必要がある[…]

 不入森とは[…]そのまま読む[…東]京都大和村山[…]れている場所[…]からその名[…]る高貴な人物[…]場所だ。現[…]さな区画だ[…]禁止されて[…]なくなる。[…]ころは謎に[…]「入らずの[…大]和村山市の[…]真実のほど[…]

 […]比売が実在の人物であったならば、その場所が伝説と深く関わっている可能性は大きいだろう。次に大蛇の伝説であるが、大蛇またはオロチに関する伝承は、我が国のみならす世界各国に類似の伝承・伝説・神話が残されていることから、何らかの共通点を持つ出来事ないし、同じ出来事が各[…]いること[…]

 玉響比[…]あろうか[…]

 その答[…]りも遥か[…]た通り、[…]

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シンさんが11話で読んでいたやつ

まあ普通にウルトラ兄弟No.1として知られるゾフィー兄さんが玉響姫と一緒に、6話にも登場した入らずの森の地下にマガオロチ(=マガ魂)を封印したということになる。
つまり、かつて封印されたのは卵か幼体のマガオロチに過ぎなかった。12話でマガオロチが倒れた後、やはりジャグラーの言う通り「地中に命を託し」、東京タワー地下でおよそ12話かけて成長したのである。というか命ってなんだよ……。

とにかく結論として、本文に記された出来事は正真正銘過去に起こった出来事ではない。多分マガオロチ封印に関わる話でもない。つ ま り…………
太平風土記は、予言書である。

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何の関係もない画像












まあ、とりあえずまだ検討していない部分をさっと検討して終わらせよう。

陽に向かい清浄の気を持ちしもの、というのが微妙に意味不明であったが、本編の内容を見た後ならばこれは御神木のことだとわかる。陽に向かって成長するしね。え、清浄の気? 酸素とかじゃないかな……。確かに12話でマガオロチが上にのしかかっているので打ち砕かれているし(なんか時系列が逆な気がする)、聖なる力がマガタノオロチの中にとどまっている(?)し、やっぱり予言の通りに本編も進行している。

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シンさんが読んでいる御神木のニュース。「断魔樹」と呼ばれていたらしい(地味に重要情報)。

深く大地に根ざして邪気を払ったような記憶はないが、とりあえず邪気は払われたし、マガタノオロチの力は浄化されて、その土地(どこだよ)は聖なる力で守られるんだなあ……(そんな描写あったっけ)

なんか納得がいかないような気がするのだが、まあ大団円だし、感動したし。いいじゃないか。そう、唯一永遠なもの……それは……愛だ……。

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2020.08.09追記)『太平風土記翻刻・解説シリーズを再度同人誌としてまとめました。現在BOOTHにて通販中です。詳しくはこちら

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