ふくらみ

膨張し続けている

特撮クリスマス回――その歴史と変遷

今度のC95で、昨年頒布した『特撮クリスマス回50年史』の増訂版を頒布します。

fukurami.hatenablog.com

クリスマスも近いので、せっかくだから今回加筆した考察編のダイジェスト版を公開します。全長版では以下に加えて、特撮クリスマス回に登場したサンタの分析とかもしています。

はじめに

 年末の風物詩といえばなんだろうか。歳の市、お歳暮、大掃除、そば、冬コミ......人によって色々有ると思うが、特撮ファンにとっては違う。そう、「特撮クリスマス回」である。特撮ではどういうわけか昔から年末のクリスマスとかいう行事が近づくとクリスマスにちなんだ話を放送したりする(もちろん特撮に限った話ではない)。だから特撮ファンは毎年12月半ばには「おっ今日はクリスマス回か~」なんて思ってほっこり自らの孤独を顧みたりするのだが(それはお前だけだ)、ちょっと待ってほしい。いつからクリスマス回はやっているのか。そして歴史があるとすれば、戦後日本の文化が変わりゆくなかで、クリスマス回はどのように変わってきたのか。そういうことは気にならないだろうか(普通なるわけねえだろ)。

 というわけで、筆者は『特撮クリスマス回50年史』なんていう同人誌を作ってしまった。その成果の一部として、考察編を改稿して特撮クリスマスの歴史と変遷について以下にまとめてみたい。

※同誌で取り上げた特撮クリスマス回の一覧は以下を参照。以下、適宜こちらも参照しながら読んでいただけると助かります

fukurami.hatenablog.com

1.戦後クリスマス文化の変遷と特撮クリスマス回

1-1.1950年代までの日本におけるクリスマス

 日本へのクリスマスの伝来は戦国期、イエズス会宣教師に遡るといわれる。もちろん江戸幕府が切支丹禁制を敷いたため途絶えるが、明治になると居留地を拠点として、都市へクリスマス文化がもたらされることになる。以後戦前昭和期にかけて、クリスマスは都市における祝祭――ただし、家族で祝うというよりは、成人の遊興する機会として日本へ受け入れられた*1

 戦前には都市を中心にハイカラな文化として、知識人や勤め人層に受容されたクリスマスであったが、現在のように日本全国津々浦々、老若男女に受容されるようになるのは、戦後になってからである。

 戦後、クリスマス文化を日本に定着させる強い原動力となったのは、米国を中心とする占領軍であった。GHQの元でアメリカからやってきた戦災孤児支援は、「クリスマス・プレゼント」などの形態で行われた*2。また占領軍が度々クリスマス・パーティーを開くなどした結果「クリスマス」のイメージは日本国民に広まり、平和・豊かさの象徴として捉えられてゆく。

 日本全国へのクリスマス浸透に大きな役割を果たしたのは、メディアであった。前記のようなイメージを背負い、1950年代からラジオでは盛んにクリスマスの話題が繰り返され、さらに53年に開始されたテレビではアメリカから輸入されたホームドラマも放映されていた。これらメディアによって華やかな「クリスマス」の情景が聴覚・視覚的に全国へ伝えられた。また様々なクリスマス番組が放送される中で、メディアはそのイメージの再生産をも担っていった*3。デパートやスーパーで年末商戦と結びついて行われたクリスマス・セールは、そうした豊かさのイメージも相俟って、日本への定着の大きな一助となった*4

1-2.1960~70年代

【表1】特撮クリスマス回の変遷
回数販促度平均キリスト恋愛
196612.001
196721.001
196821.001
19690-
19700-
197121.001
197221.00
197341.001
19740-
197512.001
197621.001
19770-
197813.00
197911.00
198011.00
198112.00
198211.00
198311.001
198421.5011
198512.001
198621.50
19870-
198823.00
198922.5011
199013.00
199112.001
199221.5011
199313.00
199432.33
199511.00
199633.33
199715.00
199822.00
199933.671
200013.00
200111.00
200213.00
200321.50
200412.00
200531.67
200641.503
200772.291
200815.00
200934.0011
201031.332
201123.00
201224.50
201324.50
201425.001
201515.00
201624.00
201733.00
201822.501

 戦後直後は、社会人など成人男性が遊ぶ口実となっていたクリスマスだったが、60年代後半以降には家庭で祝われるようになってゆく。東京オリンピックを経て景気回復とともに「一億総中流」社会が形成され都市中流層にマイホームが普及、核家族化などもあって、家族を単位とした「ホーム・クリスマス」と呼ばれる消費形態が主流となる。また、60年代後半に生まれた「サンタさん」という略称に象徴的なように、クリスマス自体も、キリスト教色を失ってゆき、日本への土着化が進んだ*5オイルショックによる景気落ち込みもあって、60年代まで支配的だった、うかれ騒ぐクリスマスは次第になりを潜める。

 確認できた限り最初の特撮クリスマス回は1966年の『マグマ大使』25話「悪魔からのクリスマスプレゼント」である。以後、60~70年代には18エピソード・20話の特撮クリスマス回が放送されることになる。【表1】は、2017年までのクリスマス回の回数と諸要素を年別にまとめたものである。この表を見てもわかるように、第二次怪獣ブームに代表される特撮の黄金期にも関わらず、後年ほどクリスマス回は制作されておらず、全く見られない年すらもある。クリスマスが年末行事として受け入れられつつある反面、未だに年末エピソードに必須の存在とまでは考えられていないということだろうか。

 例えば72年の『ウルトラマンA』38話「復活!ウルトラの父」ではクリスマスを外来文化と捉え在来文化との衝突を描いており、完全な土着化に至らないクリスマスの姿も読み取れる。この回のように、クリスマスの「外来文化」性、特にキリスト教との関わりが強く描かれる場合が、60~70年代頃のクリスマス回に見られる。この特徴については後述する。

ウルトラマンA』 38話「復活!ウルトラの父
北斗たちはクリスマスにプレゼントを贈るため孤児院を訪れるが、いつになっても暗くならない異常現象が起こり、人々が失明する。それはクリスマスを疎むナマハゲが操る超獣スノーギランの仕業であった……。

1-3.1980~90年代

 80~90年代には31エピソード・36話の特撮クリスマス回が制作されている。80年代からは頻度がぐっと増し、87年を除いて2018年まで毎年一回は必ずクリスマス回がある計算になる。

 クリスマス描写としても、70年代後半から家庭でのクリスマスパーティーの描写が増加するなど、クリスマス文化の定着を窺わせる。

 切れ目なくクリスマス回が続いた要因としては、80年代については不思議コメディシリーズ、90年代についてはメタル・戦隊シリーズで定番となったことがあるだろう。これらシリーズでは最終回や間近の重要局面にクリスマス回が当たることが多く、クリスマスにかこつけた「奇跡」などが効果的に用いられた*6

 ところで70年代後半以降、大人たちに代わりクリスマス消費の主体となったのは、若者たちだった。クリスマスが宗教色を失い、西洋風の装いを持つ年中行事の一つとして世代を問わず受け入れられる過程で、カップル文化との接触が起こった。

 80年代から本格化する、カップルを中心としたクリスマス消費は「シンデレラ・クリスマス」と呼ばれる。「ロマンチックな一夜」というワードに明らかなように、恋愛や結婚など「性」と強く結びついた消費形態は日本に特有のものとして注目されている*7。バブル景気の進行や女性の社会進出などもあって、80年代後半から90年代前半にかけてこうしたクリスマス消費は華やかに展開する。JR東海山下達郎の有名曲を起用して制作したCM「シンデレラ・エクスプレス」は、まさにその象徴といえる。バブルが弾けて以後、そうした派手な消費は見られなくなる。しかし、クリスマスと恋愛の結びつきは日本に定着し、現在まで継続しているのは読者諸賢もご存知のところだろう。

 特撮クリスマス回においても、80年代からは現実と同様に「シンデレラ・クリスマス」的な恋愛描写が増加しているという特徴がある。世間の動向に素早くキャッチアップするこうした様子については、後に詳述する。

1-4.2000~10年代

 この時期のクリスマス文化の変化に関しての研究は少ない。筆者の肌感覚としては(ごめんなさい)、クリスマス文化が定着したこと、また長い不況の影響で90年代初頭までのような激しい消費が抑えられたことにより、クリスマス文化そのものに大きな変化があったようには感じられない。ただし、シンデレラ・クリスマスに関しては、携帯電話等の普及によって文化の多様化・個人化が進んだ結果、相対化の動きも起こっている*8という。

 2000年以降に制作された特撮クリスマス回は全43エピソード・57話であり、全体(92エピソード、113話*9)のおよそ半数がこの18年間に集中していることになる。特撮黄金期である70年代に比べれば大幅に作品数が減っている中でのこの状況であり、かなり特異であろう。

 この状況の理由としては、戦隊シリーズのクリスマス回の影響が挙げられよう。戦隊のクリスマス回は1993年に始まって以後*10、95・98・02・10年を除いて毎年必ず放送されている。また二話、時には三話構成という長いスパンでのエピソード構成が多いことも特徴だろう。2010年以後は二期平成ライダーでも定番となり、現在に至る。クリスマスが冬の行事として、空気や水のようにあって当然のものとして社会に受け入れられていることがわかる。

 またこの時期の特撮クリスマス回の大きな特徴として、玩具販促との強固な結合が挙げられる。熱心な視聴者であればピンとくると思うが、戦隊のクリスマス回では大抵ロボやメカの大集合があり、ライダーでもアイテムの大盤振る舞いをしたりする。このようなある種あからさまな販促は90年代後半から見られるが、90年代前半以前のクリスマス回では全くといっていいほど見られない。もちろんそうした下衆な事情など感じさせない珠玉の掌編も多いことは確かだが、このことは特撮クリスマス回に特異な現象として、後に改めて分析したい。

2.特撮クリスマス回とクリスマス文化の変容

 先に見たような特撮クリスマス回の歴史の中では、キリスト教や恋愛、そして玩具販促との関わりが見られた。以下、それぞれについて各論を述べてゆきたい。

2-1.特撮クリスマス回とキリスト教要素

 先に述べたとおり、クリスマスの文化はキリスト教とともに日本へ流入した。戦後においてもそれは同様と思われるが、特撮クリスマス回においてはどうだったのだろうか。

 【表1】のうち、「キリスト」の項を見ていただきたい。教会などキリスト教要素がある回を数えたものである。あまり数は多くないものの、特に60年代に多くみられることがわかる。60年代のクリスマス回五回のうち三回が該当し、当時未だに外来文化としての性格を強く残していたことが読み取れるだろう。

 具体的なキリスト教要素について、順を追ってみてゆこう。【表2】はキリスト教要素のあった回を抜き出したものである。

【表2】クリスマス要素のある特撮クリスマス回
作品名 日付 話数 サブタイトル
マグマ大使 1966.12.19 25 悪魔からのクリスマスプレゼント
コメットさん(九重佑三子版) 1967.12.25 26 来てよサンタクロース
コメットさん(九重佑三子版) 1968.12.23 78 いつか通った雪の街
がんばれ!!ロボコン 1975.12.19 61 アリャサノサ!!サンタが現れた!
ぐるぐるメダマン 1976.12.25 25 メダマンはサンタクロース
宇宙刑事シャイダー 1984.12.21 39 仮面が踊る聖歌隊
魔法少女ちゅうかないぱねま!  1989.12.24 23 別れのクリスマス
不思議少女ナイルなトトメス 1991.12.22 50 サンタを信じる
特捜エクシードラフト 1992.12.06 43 神と悪魔の黙示録
1992.12.13 44 終戦争の聖夜
MOVIE大戦2010 2009.12.12 劇場版 仮面ライダーW ビギンズナイト

 60年代の3回のうち66年の『マグマ大使』25話には教会のミサが(唐突に)登場、67年の『コメットさん』(九重佑三子版)26話「来てよサンタクロース」ではサンタのモデルである聖ニコラウス本人や、キリスト教組織である救世軍*11のおじさんが大きく描かれる。68年の『コメットさん』78話「いつか通った雪の街」では教会の儀式に由来するキャンドルサービスを行う人々の姿も描かれる。数には含めていないが、67年の『忍者ハットリくん+忍者怪獣ジッポウ』21話「妖術との対決でござる」でもキリストの奇跡を連想させる描写があるなど、クリスマス回とキリスト教描写は不可分なものであった。

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マグマ大使』25話のミサシーン

マグマ大使』 25話「悪魔からのクリスマスプレゼント」
マモルは街でサンタに化けたゴアの手下から犯行予告を受け取る。ゴアの手下のミクロン人間が人々を操りテロを起こすなか、マモルも襲われる……。
ミサの参列シーンがあるのは敵の怪獣から逃れた直後で、状況からそのまま向かったと思われて不自然である。

 70年代ではキリスト教要素の頻度が大きく下がる。75年の『がんばれ!!ロボコン』61話では賛美歌と共にキャンドルサービスをする人々が描かれ、76年の『ぐるぐるメダマン』25話では救世軍の社会鍋が一瞬映る。しかし60年代ほどに本格的な描写はなく、キリスト教要素がある方が少数派となっている。

 80年代以降はかなりキリスト教要素が薄まる。悪魔崇拝と絡めた84年の『シャイダー』39話「仮面が躍る聖歌隊」は例外的に強いキリスト教感があるものの、89年の『魔法少女ちゅうかないぱねま』23話・91年の『不思議少女ナイルなトトメス』50話はいずれもフレーバー的に教会や祈祷が描かれるのみである。92年の『特捜エクシードラフト』43・44話はミカエルの登場、神と悪魔のサンタの戦いなどがあるが、キリスト教というよりはむしろ終末論の味付けが強い。最後にキリスト教要素が見られる10年の仮面ライダーW・ビギンズナイトは敵が教会の神父なだけである。

特捜エクシードラフト』 43話「神と悪魔の黙示録」44話「最終戦争の聖夜」
ドラフトレッダー=叶隼人は夢に現れた美香(ミカエル)から地球滅亡の予告を受ける。折しも街でサンタのビラを受け取った子供が失踪する事件が起こっており、エクシードラフトは調査中にサンタと交戦する。その神のサンタたちは美香が子供たちを守るため遣わしたものだった。納得のできない隼人は子供たちの隠された工場へ向かうが、そこを悪魔・大門が作った悪魔のサンタが襲撃し……。

 総合して、60年代に強かったクリスマス文化とキリスト教要素の結びつきは70年代以降弱まり、80年代以降は物語のスパイス程度の役割になってしまう。特に90年代後半以降はクリスマス回が増加する反面キリスト教要素はほとんど無く、完全なクリスマスの脱キリスト教・土着行事化の様子がよくわかる。

2-2.特撮クリスマス回と恋愛要素

 日本のクリスマスの大きな特徴として、恋愛や結婚といった概念と結びつき、ロマンチックな行事として展開したことが挙げられる。既に述べたように、こうした「シンデレラ・クリスマス」の傾向は80年代以降非常に強化された。

 特撮クリスマス回においても、80年代以降恋愛要素が多出することになる。【表1】を再度ご覧いただきたい。やはり80年代を画期とし、以後現在まで頻出する様子がわかるだろう。

【表3】恋愛要素のある特撮クリスマス回
作品名 日付 話数 サブタイトル
帰ってきたウルトラマン 1971.12.17 37 ウルトラマン 夕陽に死す
1971.12.24 38 ウルトラの星 光る時
ウルトラマンタロウ 1973.12.21 38 ウルトラのクリスマスツリー
ペットントン 1983.12.25 12 超能力のクリスマス!
勝手に! カミタマン 1985.12.15 37 年に一度の片思い
もりもりぼっくん 1986.12.21 38 花嫁はアイアンおばさん
魔法少女ちゅうかないぱねま!  1989.12.24 23 別れのクリスマス
うたう! 大龍宮城 1992.12.20 50 タツノオトシゴ
ブースカ! ブースカ!! 1999.12.18 12 冬の国ものがたり
仮面ライダーカブト 2006.12.17 45  
2006.12.24 46  
魔弾戦記リュウケンドー 2006.12.24 51 黒い月夜のクリスマス
轟轟戦隊ボウケンジャー 2006.12.24 43 危険な贈物
トミカヒーローレスキューファイアー 2009.12.12 37 緊急出場レスキューフォース
満福少女ドラゴネット 2010.09.11 11 クリスマスに奇跡を起こせ!
MM9 2010.09.15 11 それぞれの聖夜
仮面ライダードライブ 2014.12.14 10 ベルトの過去になにがあったのか
2014.12.21 11 暗黒の聖夜を防ぐのはだれか
仮面ライダージオウ 2018.10.14 7 マジック・ショータイム2018

 ここで特筆したいのが、70年代前半に見られる二エピソードだ。一般的な理解とは異なり、シンデレラ・クリスマスが本格化する80年代に先立って恋愛要素が見られる。この両者は『帰ってきたウルトラマン』37・38話(71年)・『ウルトラマンタロウ』38話(73年)であり、前者ではアキが郷へのプレゼントを買った(明らかに恋愛感情の描写がる)直後に非業の死を遂げ、後者では主題とは関わらないものの、森山隊員と白鳥さおりが光太郎との結婚を想像するという明確な描写がある。諸先行研究を参照する限り、クリスマス文化とカップル文化の結合は概ね1970年代後半以降のこととされており*12、かなり特異な例ではないかと思われる*13

 シンデレラ・クリスマスが本格化する80年代になると、特撮クリスマス回にもそれらしき表現が現れる。83年の『ペットントン』12話では子供らの恋愛模様がクリスマスと絡められ、85年の『勝手に!カミタマン』37話では彼女とロマンチックな夜を過ごせない若いサンタの苦悩が描かれた。86年の『もりもりぼっくん』38話ではサンタと柴田理恵が結婚(!)した。89年の『いぱねま』23話ではヒロインが結ばれる。いずれも浦沢義雄脚本なのでバイアスはあるだろうが、物語の前提として「カップルはクリスマスをロマンチックに過ごし、プロポーズしたりする」というシンデレラ・クリスマス概念が自然に組み込まれている。

『もりもりぼっくん』38話「花嫁はアイアンおばさん」
主人公らを悩ますアイアンおばさん(演・柴田理恵)をなんとかすべく、ぼっくんは彼女に偽ってプロポーズをする。二人は結婚式を挙げようとするが、嘘が露見しおばさんは荒れ狂う。そこに現れたのはサンタだった。サンタにおばさんは惚れ込み、二人でクリスマスの夜空に消えるのだった。

 90年代はあまり見られないものの、95~98年頃に円谷プロが制作したクリスマスCMは明らかにJRのアレを意識したシンデレラ・クリスマスものであり、99年の『燃えろ!!ロボコン』クリスマスCDのドラマパートでは大人同士がかつてのロマンチックな恋を思い出すという描写がある。

 00年代のクリスマス回にも恋愛要素は多出し、特に06年は『カブト』45・46話、『リュウケンドー』51話、『ボウケンジャー』43話と、同年のクリスマス回四エピソードのうち三エピソードに恋愛が絡むという異常事態になっている。他に『ケータイ捜査官7』SP回(07年)・『レスキューファイアー』37話(09年)と若者の恋愛が前面に出る作も多い。ただし、00年代のクリスマス回では単にデートをするだけだったり、80年代に見られた過激さ・派手さは見られない。

 10年代も14年の『ドライブ』10・11話、18年の『ジオウ』7話(劇中年代は12年)などで継続して恋愛要素が見られるが、こちらも同様である。明らかに頻度が減少していることもあわせ、10年代にかけて特撮クリスマス回の脱恋愛化という現象を指摘することができるだろう。

 現実においても、00年代後半から10年代にかけて、女性向け雑誌や新聞でのロマンチック・クリスマス特集が急減し、若者がシンデレラ・クリスマスから離脱していく傾向が指摘されている*14

 実際に、LINEリサーチが2018年11月下旬に実施したクリスマスの過ごし方に関する調査*15では、24~25日の過ごし方として「いつも通り過ごす」が51%で最多回答となった。25日が平日ということも影響していると思われるが、20代独身男女への調査では「クリぼっち」が男女ともに最多となるなど、必ずしも恋愛に因われないクリスマスのあり方も増えているようだ。

 ところで、特撮クリスマス回における恋愛要素で面白い点は、子供を主体とした「家族的消費」との共存である。70年代は無論、シンデレラ・クリスマス全盛の80年代でも、『どきんちょ!ネムリン』17話(84年)・『カミタマン』37話(85年)をはじめ、家庭における親子揃ってのクリスマスパーティー描写は欠かされることがない。90年代以降も同様である。

 こうしたあり方の理由としては、特撮作品の大半が子供向けであることが挙げられよう。つまり、ティーン以上の恋愛模様が子供たちにとっての「憧れ」として作品に取り込まれる一方で、子供たちの「現在」である家族とのクリスマスもまた、作品の中に求められたのである。

 特撮作品におけるクリスマス文化の描かれ方は、社会の写し鏡のように世相を映して変化してきた。とはいえ、その本質として子供向けのメディアであり、そこに描かれる社会像は第一義的に子供たちの「憧れ」や「現在」を色濃く反映したものであった。戦隊の変身アイテムが腕時計からガラケー、そしてスマホへ移り変わったように、子供たちの見る世界の模様を汲み取って、これまでも、これからもクリスマス回は変化してゆくことだろう。

2-3.玩具販促と特撮クリスマス回

 先に触れたように、特撮クリスマス回と切っても切り離せないものとして、玩具販促との関係がある。90年代後半から顕著になったのは、クリスマス回になるとロボやメカが大集合したり、収集アイテム類を主人公が沢山使ったりする、「販促回」と「クリスマス回」の強い結びつきである。

 本節では、クリスマス文化の分析という主題からはそれるが、特撮クリスマス回自体の分析として、これまで各作品について評価してきた「販促度」と、全ての黒幕である財団B、もといバンダイの玩具戦略の分析から、特撮作品に特有のこの事情にメスを入れたい。

・販促度の変遷

 『特撮クリスマス回50年史』では、各エピソードについて五点満点の「販促度」を担当者の主観によるものであるが、評価してきた(販促度の一覧は、以下のクリスマス回一覧を参照)。ここから、特撮クリスマス回における販促がどのように変化したのかを考えたい。

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 もちろん、販促回はクリスマス回に限らず、年末にはよく見られる。しかし、敵の大幅強化や、敵組織の内紛など販促回の前提となる大きなイベントを起こす理由付けとしてクリスマスが使われる例は多い。クリスマスは年末商戦時期に都合のよいイベントでもあるわけである。

【表4】は、販促度を五年刻みに集計し、平均を取ったものである。一見して明らかなように、時代を追うように販促度が上昇していることがわかる。一度95~99年でピークを迎えたのち下落、現在に至るまでぐんぐんと上昇していることが読み取れるだろう。

【表4】5年ごとの販促度平均
  回数 平均販促度 戦隊のみ 戦隊除外
1965~69 5 1.20 - 1.20
1970~74 8 1.00 - 1.00
1975~79 5 1.60 - 1.60
1980~84 6 1.33 - 1.33
1985~89 7 2.29 - 2.29
1990~94 8 2.25 2.33 2.20
1995~99 10 3.10 5.00 2.29
2000~04 6 2.00 1.75 2.50
2005~09 18 2.44 3.40 2.08
2010~14 11 3.45 3.80 3.17
2015~19 8 3.38 4.33 2.80

 いったいどこに理由があるのだろうか。大きな原因はスーパー戦隊シリーズにある。一覧表の販促度を見ても、戦隊に限って販促度の高い回が多いことに気がつくだろう。【表4】にはスーパー戦隊のみ・戦隊以外の両者に分けて販促度の5年間平均を算出している。95~99年や05年以降の区間で、戦隊の存在が販促度を押し上げていることがわかる。戦隊を除外しても10年以降は販促度が上昇しているが、これも理由は明白で、同年以降のクリスマス回は基本的に戦隊とライダーだけで構成されているためである*16。ご存知のように二期ライダーはアイテムがやたら多いので、戦隊と同様にアイテム盛りだくさん回を年末に入れがちになるのである。

 ではなぜ、戦隊では販促度が高くなってしまうのだろうか。また、現在に近づくにつれ販促度が高くなる理由はどこにあるのだろうか。以下、戦隊を題材として、巨悪・の恐るべき陰謀を明らかにする。

バンダイの玩具戦略と戦隊クリスマス回

 戦隊のクリスマス回が始まったのは、93年の『五星戦隊ダイレンジャー』44話「感動!君も泣け」からである。以後、四年を除いて毎年戦隊はクリスマス回を放送している。販促度に注目すると、『ダイレン』や94年『カクレン』は低めなものの、96年の『カーレンジャー』から販促度がぐんと高くなる。このあたりで、一体何が起こったのだろうか。

 バンダイにとっての90年代前半を、【グラフ1】から読み取りたい。同グラフは、『会社四季報*17およびバンダイバンダイナムコ決算資料*18から、各年度の連結売上高に占める玩具関連セグメント*19の売上高を示したものである。

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近年どんどん玩具関連の割合が小さくなっている*20ことに若干の寂寥を覚えるが、それはさておき。87年~91年にかけて急成長を遂げた男児玩具であるが、92年以降は足踏みとなる。94年は盛り返すものの、再度下落する状況となっている。女児玩具(セーラームーン)によって埋め合わせるものの、予断を許す状況ではない。

 この時期の『会社四季報』のバンダイ評価では「男児キャラクター玩具伸悩む」(92年新春)「男児玩具は横ばい」(95年新春)と厳しい。時折明るい表現があるが、「男・女児玩具で「クレヨンしんちゃん」「セーラームーン」がヒット」(94年新春)とあり、戦隊の名前が出てこない。当該時期のキャラクター別売上統計は見当たらないため詳細は不明だが、戦隊を含めヒーロー系が厳しい状況だったことは間違いないだろう。

 ところで、同じ時期に戦隊の玩具戦略は転換点を迎えている。【グラフ2】は、戦隊シリーズに登場したアイテム(変身アイテム、メカなど)のうち、玩具化されたものを各戦隊毎に集計したものである*21

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 84年のバイオマンまで変身アイテム・共通武器・ロボ構成メカを中心に少数のみ販売されてきた戦隊玩具であるが、83年のポピー吸収を経て、85年からその数を増している。この増加分の内訳は、メンバー専用バイクが色別に発売されたことや合体バズーカ、個人武器の商品化などによる。またロボの構成メカの増加や二号ロボの出現もあって、90年代前半までにアイテム数は20弱程度に落ち着く。

 転機と考えられるのが『カクレンジャー』である。武器等のアイテム数は変わらないものの、メカ数が増大している。カクレンジャーでは一号ロボ(無敵将軍)・二号ロボ(隠大将軍)がそれぞれ五体合体な上、獣将ファイターがそれぞれ商品化されたことが大きい。以後粗密はあるものの、94年を境に平均して25~30アイテム程度が例年発売されるようになる。加えて、『カーレンジャー』を機にいわゆるマルチ合体(ロボの構成要素が差し替え可能なこと)が導入され、各アイテム間のシナジー効果を図る動きも進んでいる。

 以上のような動きは、マンネリ化の進む玩具販売へのテコ入れを図ったものであった。それと全く同じ時期に開始され、定着したのがクリスマス回であった。すなわち、多種多様化した玩具を効率的に販促するために、年末商戦期のダメ押しとしてのロボ大集合販促回が必要とされ、かつ、販促回の理由付け&クリスマス気分の増進による玩具購入意欲喚起のためには、まさにクリスマス回がうってつけなのであった。

 そして21世紀に入り、戦隊クリスマス回はその頻度を高めると共に、販促度を増していった。この理由は明らかであろう。00年代後半からのアイテム数の急激な増加である。本格的なものでは『ゴーオンジャー』の炎神ソウルが最初となるのだろうか、価格帯が比較的低い商品を多種展開、主力アイテムとの連動を図るという、収集アイテム商法がこの時期から始まってゆく。

 こうした状況の元で、クリスマス回と販促の関係は固定化したように思われる。10年代の戦隊クリスマス回の販促度は4~5で安定して推移し、当分この傾向は続くものだろう。

 先に論じた特撮クリスマス回とキリスト教・恋愛といったクリスマス文化の関係は、特撮ジャンルが「外」からの影響を受けた結果であった。一方この特撮クリスマス回と販促の関係は、それとは逆に、「特撮」というジャンルそのものに内在していた、玩具依存という構造から自生的に起こった現象といえる。ところで、玩具業界には一つの暗雲がたちこめつつある。少子化という暗雲が。市場の縮小に伴って、玩具業界は今後どこに活路に活路を見出してゆくのだろうか。そして、玩具販促一色に染まった感のある特撮クリスマス回は、一体どこへ向かってゆくのだろうか。その先を知る者はいない。

結論にかえて

 特撮クリスマス回の行方は誰にもわからない。しかし一方で、別の「年中行事回」に台頭の兆しがみえる。それは何を隠そう、ハロウィンである。90年代には「日本人のごく一部で行われているにすぎない」*22とされていたが、昨今の渋谷の騒動からもわかるように、現在日本への定着が進んでいる。

 そんな中、2018年には二回のハロウィン回が放送されている(『マジマジョピュアーズ』29話、『ウルトラマンR/B』17話)。果たしてハロウィン回は今後定着するのだろうか。そして、販促と結びつくなどして(時期的に難しい?)いかなる展開をみせるのか。一時代が終わろうとする冬、確かに新しい時代は芽吹きつつある。

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*1:クラウス・クラハト、克美・タテノクラハト『クリスマス どうやって日本に定着したか』(角川書店、1999年)。明治・大正期のクリスマス受容については、クラハト書に加え勝田彩香「明治大正期のクリスマス受容-クリスマス・サンタクロースの諸表象」(『リテラシー史研究』6号、2013年)などの研究がある。

*2:金命柱「占領下(1945-1952)日本のクリスマス」(『国際日本学論叢』9号、2012年)

*3:以上、前掲金命柱論文・前掲クラハト書。

*4:石井研士『都市の年中行事―変容する日本人の心性』(春秋社、1993年)

*5:以上、前掲クラハト書。

*6:ただし、12月はそもそもクールの切れ目であり、以前からクリスマス回では敵幹部が倒されたり主要キャラが退場するなどしている。

*7:前掲石井書、Brian Moeran and Lise Skov. \"Cinderella Christmas: Kitsch, Consumerism, and Youth in Japan\"(Daniel Miller. Unwrapping Christmas. Oxford University Press, 1993. pp.105-133)

*8:堀井憲一郎『愛と狂瀾のメリークリスマス』(講談社現代新書、2017年)

*9:以上の数値は2018年12月20日現在のもの。23日には『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』でクリスマス回が放送され、93エピソード、114話となる見込み。

*10:それ以前の戦隊シリーズでは一切クリスマスへの言及がない

*11:救世軍......実践的な社会活動を重んじるプロテスタントの一教派。1865年にロンドンで牧師ブース夫妻らが創始した。軍隊方式の組織が採用されている。日本へは明治時代に伝来し、社会奉仕活動で知られている。年末の街頭の風物になっている街頭募金活動の「社会鍋」も、その活動の一端である。(『日本大百科全書』(小学館)より改変)

*12:前掲石井研士書・前掲堀井憲一郎書。ただし堀井書によれば60年代後半にはカップルでクリスマスイブを過ごす者は存在したようだし(多数ではない)、70年には雑誌『an・an』でクリスマス特集が組まれている。

*13:関係は不明だが、円谷プロはかなり先見性を持って文化を吸収する傾向があり、2018年現在大盛り上がりのハロウィンを、未だマイナーだった1996年に「ティガ」八話で取り込んでいる。

*14:前掲堀井憲一郎

*15:LINEリサーチ「クリスマス調査(2018年11月下旬実施)」(http://research-platform.line.me/archives/29995403.html、2018年12月16日閲覧)。LINEユーザー42万2402人を対象としたアンケート調査による。

*16:ここ二年は『ミラクルちゅーんず』・『マジマジョピュアーズ』の女児向け特撮がクリスマス回をやっているが、こちらもタカラトミーの販促番組の性格が極めて強いため、販促度が高くなる。

*17:東洋経済新報社編『会社四季報』(同社)各年新春号より。

*18:主に前掲『会社四季報』により、株式会社バンダイ「平成17年 3月期 決算短信(連結)」(http://www.bandai.co.jp/releases/index_200505.html、2018年12月17日閲覧)・株式会社バンダイナムコホールディングス「2018年3月期決算短信」「2017年3月期決算短信」(https://www.bandainamco.co.jp/ir/library/result.html、2018年12月17日閲覧)により修正した。

*19:会社四季報』の区分に従う。98年までは「男児玩具」「女児玩具」「模型」、99~02年は「トイ・アミューズメント」(玩具・ゲームを一括。内訳不明)、03年は「トイホビー」。

*20:近年の急拡大の理由は主にゲーム部門、要するにソシャゲのおかげのようだ。

*21:劇中登場と玩具化の積集合であり、未玩具化あるいは劇中未登場のアイテムはカウントしていない。また、DXとミニプラ等、複数形式で展開している場合は一括して1と数えた。数え方が雑であったり見逃しもあると思われるため、若干の誤差を見込んでいただきたい。

*22:前掲石井書