アニゴジにおけるゲマトロン/ゲマトリア混在問題に決着をつけよう
ゴジラS.P、ついに最終回!
いやはや、SFファンかつゴジラファンな自分にとってはラーメンライスのおかずに焼きそばパンが出てきたような美味しさ。特に最終回の████████が███したり██の███が████████████シーンには感激させられましたね!!
というわけで今回はアニゴジの話です。
え、S.Pの話じゃないのって? 当たり前だろアニメ映画「GODZILLA 怪獣惑星」「決戦機動増殖都市」「星を喰う者」の話に決まってるじゃないか!!!!
ゴジラS.Pは現代から地続きの技術にアーキタイプというスパイスを加えた近未来SFでしたが、同じSFでもそれとは対照的に未来感・宇宙感に寄せたのがアニゴジ3部作でした。
宇宙人からの技術導入を背景に数多のSF設定・SFガジェットが盛り込まれ、恒星間移民船〈アラトラム〉号や〈ナノメタル〉などが印象的でした。中でも雰囲気作りに役立っていたのが、異星人エクシフの操る〈ゲマトロン演算〉。
ゲマトロン演算とは何かと言うと、
【ゲマトロン演算】エクシフが独自の数学体系に基づいて運用している未来予測技術。亜空間飛行をトラブルなく行うためだけではなく、エクシフが行うガルビトリウムの神託にも使われていると考えられる。(2章パンフより引用)
まあ要するに人類には理解できないなんか凄い計算で未来が分かったり亜空間が航行できたり色々なものが分析できたりするという奴*1。
で、このゲマトロン演算なんですが、ところによっては「ゲマトリア演算」になってたりすることが既に知られています。設定の不統一じゃん! と叩かれる材料にもなっているようなのですが、待ってほしい。一見表記のゆれに見えたとしても、実はその裏に何らかの使い分けが存在していて、制作陣の深い意図を我々が見逃してしまっているだけなのかも知れない。そうは考えられないでしょうか。
使い分けがあるとすれば、考えられるのは以下の3つの可能性でしょう。
①同じようで実は違う演算方法を指している
②種族による言語の違いが反映されている
③特に違いはない(ただの表記ゆれ)
というわけで、とりあえず「ゲマトロン」あるいは「ゲマトリア」が含まれるセリフを全部書きだしました。
目次
1.アニメ本編
まずはアニメ本編から。各章ともBD版に拠ります。表記は適当。
時間 | 単語 | 発言者 | 種族 | セリフ | |
---|---|---|---|---|---|
1章 | 12:56 | ゲマトロン | エンダルフ | エクシフ | ゲマトロン演算による未来予測は思わしくない |
1章 | 13:40 | ゲマトロン | エンダルフ | エクシフ | ゲマトロンの導きに距離と時間の枷は無い |
1章 | 15:20 | ゲマトロン | マルコ | 地球人 | ゲマトロン演算上では問題ないらしいですけど |
1章 | 15:26 | ゲマトロン | アダム | 地球人 | ゲマトロンねえ。幹部連中はいつでも神頼みか |
1章 | 17:55 | ゲマトリア | ガルグ | ビルサルド | あれだけ古い映像から分析ができるようになったのは、お前らエクシフのゲマトリア演算があってのことだ |
1章 | 18:59 | ゲマトロン | 管制官 | 地球人 | ゲマトロン演算卓・重力コイル制御卓、起動 |
1章 | 19:02 | ゲマトロン | メトフィエス | エクシフ | ゲマトロン演算結晶体と中央AIとのクラスター接続、開始 |
1章 | 20:02 | ゲマトロン | 管制官 | 地球人 | ゲマトロン予言座標突入。通常推進機関、停止 |
1章 | 20:06 | ゲマトロン | メトフィエス | エクシフ | ゲマトロン演算子、全て揃いました。全無理式を整数変換。 |
1章 | 77:15 | ゲマトリア | ハルオ | 地球人 | ゲマトリア解析で、震源地を割り出せ |
2章 | 26:13 | ゲマトロン | モーリ | 地球人 | 彼らの予知能力はゲマトロン演算の応用であると、それが君たちビルサルドの見解だったはずだ |
2章 | 48:59 | ゲマトロン | メトフィエス | エクシフ | 昔ここがゴジラに破壊される前、我々のゲマトロン演算結晶体を君たちの技術で解析・修復するラボが存在した。 |
3章 | 16:05 | ゲマトリア | メトフィエス | エクシフ | 君たちが未だに至らない、ゲマトリア演算というテクノロジーが、我々に高次元存在との接触を実現させたのだ |
3章 | 38:50 | ゲマトリア | 管制官 | 地球人 | メインフレーム内部のゲマトリア演算回路が、見たこともないコードを出力しています |
3章 | 40:15 | ゲマトリア | 管制官 | 地球人 | メインフレーム内部、ゲマトリア演算結晶体! |
見事に入り交じってますね……。強いて言えば2章では「ゲマトロン」だけ、3章では「ゲマトリア」だけが使われてますが、全体としては両者が混在している状況といってよさそうです。
さてここで、先に挙げた3つの可能性を考えてみたいと思います。
可能性①同じようで実は違う演算方法を指している
→疑わしい。「ゲマトロン演算」/「ゲマトリア演算」を除いた用例は次の通り。
ただし使われている状況(亜空間航行の管制)や、組み込まれた先(アラトラム号のメインフレーム)を考えても、同じ演算方法を指しているのは明らかといえます(そりゃそうだ)。
だいたい「ゲマトロン演算結晶体」「ゲマトリア演算結晶体」が別々のものと考えるのは無理があるのではないでしょうか。
ほかに単語活用の違いみたいな可能性も考えていたんですが、この調子では怪しいっぽいです。
可能性②種族による言語の違いが反映されている
→疑わしい。上の用例を見る限り、種族によって使い分けがあるようには思われません。
まず地球人では同一人物(管制官)が両方を使っていますし、というかゲマトロンの総本山、エクシフであるメトフィエス自身が「ゲマトロン」「ゲマトリア」を両方使っているので……。
よく見るとビルサルドのガルグだけは「ゲマトリア」100%ですが、そもそも1回しか使ってないです。
……というわけで、
③特に違いはない(ただの表記ゆれ)
というのが真相ではないかと思われます(脱力)。
クッソつまらない議論&結論でしたね。しかし一体なぜこの表記ゆれが生じたのかという疑問が湧いてきませんか? 湧いてこない?
もうちょっと面白い議論がしたいので、以下では映画以外の媒体を見ることで、その疑問を考えたいと思います。
2.パンフレット
まずはもっとも映画に近い媒体であろう、映画パンフレットから。
巻 | ページ | 単語 | 発言者 | 種族 | 記述 |
---|---|---|---|---|---|
1章パンフレット | 3 | ゲマトロン | - | - | 移民の条件として、ゲマトロン演算による予測能力と独自の哲学・宗教による魂の救済を提供する |
3 | ゲマトロン | - | - | 中央政府の人工知能(ゲマトロン演算回路の組み込まれた)が選抜し始める | |
7 | ゲマトロン | - | - | 一定の未来予知を行うゲマトロン演算の技術を持っており、 | |
7 | ゲマトロン | - | - | ビルサルドの科学技術、エクシフのゲマトロン演算と宗教的癒やし | |
21 | ゲマトロン | ハルオ | 地球人 | ここで、ゲマトロン演算の応用解析によって得た、分析結果を列挙する。 | |
21 | ゲマトロン | ハルオ | 地球人 | ゲマトロン演算アルゴリズム応用AI「デインデ」(Deinde)を使用。 | |
23 | ゲマトロン | ハルオ | 地球人 | さらに、ゲマトロン演算による分布解析を進めたところ、 | |
2章パンフレット | 5 | ゲマトロン | - | - | 一定の未来予知を行うゲマトロン演算の技術を持っており、 |
5 | ゲマトロン | - | - | 【ゲマトロン演算】エクシフが独自の数学体系に基づいて運用している未来予測技術。 | |
23 | ゲマトロン | - | - | ゲマトロン演算アルゴリズム応用AI「デインデ」(Deinde)による地球公用語への翻訳 | |
23 | ゲマトロン | ガルグ | ビルサルド | ゲマトロン演算アルゴリズム応用AI「デインデ」による一斉変形制御試験 | |
26 | ゲマトロン | ガルグ | ビルサルド | ゲマトロン演算アルゴリズム応用AI「デインデ」(Deinde)によるシミュレーション | |
3章パンフレット | 5 | ゲマトロン | - | - | 一定の未来予知を行うゲマトロン演算の技術を持っており |
5 | ゲマトロン | - | - | 【ゲマトロン演算】エクシフが独自の数学体系に基づいて運用している未来予測技術。 |
※1:パンフレット所収、ハルオ・サカキ「ゴジラ完全殲滅の可能性と新戦術について」(2070年2月9日)より
※2:パンフレット所収、ムルエル・ガルグ「対ゴジラ超重質量ナノメタル製決戦兵器建造計画概要」(2042年10月10日)より*2
パンフレットは完全に「ゲマトロン」で統一されているようです。
本編で数少ない「ゲマトリア」のみの使用者であったガルグ(ビルサルド)とハルオ(地球人)もあっさりと陥落し「ゲマトロン」を使うように。まあ口語と文語の違いはありますが。
ところで、実は制作陣も「ゲマトロン/ゲマトリア」混在はちょっと気にしていたようで、パンフレットとは少し違いますが、ある媒体で説明を図ろうとした節があります。
それが次に取り上げる「エクシフに関する調査報告書」(第3章の4週目入場特典*3)です。
巻 | ページ | 単語 | 発言者 | 種族 | 記述 |
---|---|---|---|---|---|
エクシフに関する調査報告書 | 1 | ゲマトロン | アデマール・バジル・デュボア | 地球人 | この予測演算をヘブライ神秘主義の数秘術(ゲマトリア)より取って、「ゲマトロン演算」と訳すことをエクシフ側に提案し、 |
1 | ゲマトロン | 以降、エクシフの持つ予測演算を「ゲマトロン演算」と口述・筆術においても形容することとする | |||
1 | ゲマトロン | 亜空間航行に関しても、ゲマトロン演算を導入することで実現の可能性が飛躍的に向上すると考えられる | |||
1 | ゲマトロン | マーティン・ベイトマン | 地球人 | 彼らが如何にゲマトロン演算に始まる高度な科学力を持つとはいえ |
2035年に国連が密かに行ったエクシフ調査のレポート(という体裁の設定資料)ですが、注目したいのが数理物理学者であるデュボア氏(地球人)による次の記述です。
わかるのは、まず「ゲマトロン」は地球人による命名だったということ。エクシフやビルサルドは地球人に合わせてそう呼んでいるということなので、種族による違いはありえないわけです。
混在していることについても、作中世界に即するならば「うっかり元ネタの方と言い間違えてしまった」みたいな説明がつけられなくもない感じですね(本当に???????)。
ちなみに元ネタの「ゲマトリア」は実在するもので、
とあるように、ユダヤ教に基づくカバラ数秘術において文字を数字に変換して占うための方法です(画数姓名判断みたいなもの)。中東あたりから怒られ×2が発生しそうな命名ですけどアニゴジ世界の国連は大丈夫だったんですかね。
3.小説
アニゴジは何も映画だけではなくメディアミックス展開されていたので、そちらも抑えないわけにはいかないですよね。
ということで、まずはアニメより面白い!!こっちをアニメ化しろ!!と若干失礼な大絶賛をされていた、前日譚小説である大樹蓮司『怪獣黙示録』『プロジェクト・メカゴジラ』のシリーズ。
巻 | ページ | 単語 | 発言者 | 種族 | セリフ |
怪獣黙示録 | 13 | ゲマトリア | アキラ・サカキ | 地球人 | 2隻の宇宙船への乗組員は、異星人エクシフによってもたらされたゲマトリア演算(中略)によって、厳正に選出された。 |
22 | ゲマトリア | ゴードン・キャッスル | 地球人 | 当時は、今みたいなゲマトリア演算を使った職業決定プログラムなんてものはなかったが | |
94 | ゲマトリア | ジョン・スミス | 地球人 | 怪獣というのは未知の存在だった……。エクシフからゲマトリア演算が提供されて、その生態が事前にかなり解明できるようになるまでは……。 | |
155 | ゲマトリア | アキラ・サカキ | 地球人 | ゲマトリア演算と呼ばれる独自の数学体系による未来予測技術 | |
171 | ゲマトリア | ジョセフ・ポール | 地球人 | エクシフが用いるゲマトリア演算が、古代ヘブライの数秘術と同じ名前を持っているのをただの偶然と思うかね? | |
191 | ゲマトリア | ウンベルト・モーリ | 地球人 | そしてエクシフのゲマトリア演算によって、我々はマンダの位置を素早く、そして正確につかむことができた。 | |
199 | ゲマトリア | ダイチ・タニ | 地球人 | 人工衛星による偵察と、エクシフのゲマトリア演算、それにゴジラがもたらした残留放射線量を検案して決定されたと聞きますが、 | |
プロジェクト・メカゴジラ | 18 | ゲマトリア | ホリー・G・ロールズ | 地球人 | その軌道計算の正しさは多くの科学者、そしてビルサルドの観測、エクシフのゲマトリア演算によって確かめられた。 |
160 | ゲマトリア | ウンベルト・モーリ | 地球人 | お決まりのセリフ……「(中略)様々な観点を総合した上で、エクシフらより提供されたゲマトリア演算プログラムのもとに合理的に決定された」 | |
161 | ゲマトリア | タケシ・J・ハマモト | 地球人 | 様々な観点を総合した上で、エクシフらより提供されたゲマトリア演算プログラムのもとに合理的に決定された |
続けて、映画を忠実にノベライズした大倉崇裕『怪獣惑星』『星を喰う者』から。
巻 | 映画の章 | ページ | 単語 | 発言者 | 種族 | セリフ |
---|---|---|---|---|---|---|
怪獣惑星 | (1章) | 20 | ゲマトリア | エンダルフ | エクシフ | ゲマトリア演算による未来予測は思わしくない |
怪獣惑星 | (1章) | 22 | ゲマトリア | エンダルフ | エクシフ | ゲマトリアの導きに距離と時間の枷はない |
怪獣惑星 | (1章) | 22 | ゲマトリア | 地の文 | - | ゲマトリア……。カバラ数術的な理論をもとにしたエクシフ独特の量子学的演算である。 |
怪獣惑星 | (1章) | 23 | ゲマトリア | 地の文 | - | ゲマトリア演算によるコードで構成されたAIが、ビルサルド製の量子コンピュータに実装されることで |
怪獣惑星 | (1章) | 23 | ゲマトリア | 地の文 | - | 人類の理解し得ないゲマトリアの前には、ハマモトも沈黙するよりない。 |
怪獣惑星 | (1章) | 27 | ゲマトリア | ガルグ | ビルサルド | ゲマトリア演算だ。 |
怪獣惑星 | (1章) | 29 | ゲマトリア | 管制官 | 地球人 | ゲマトリア演算卓・重力コイル卓、起動 |
怪獣惑星 | (1章) | 31 | ゲマトリア | 管制官 | 地球人 | ゲマトリア予言座標突入。通常推進機関停止 |
怪獣惑星 | (1章) | 31 | ゲマトリア | メトフィエス | エクシフ | ゲマトリア演算子、すべてそろいました。全無理式を整数変換。 |
怪獣惑星 | (1章) | 116 | ゲマトリア | ハルオ | 地球人 | ゲマトリア解析で震源地を割りだせ |
怪獣惑星 | (2章) | 179 | ゲマトリア | モーリ | 地球人 | 彼らの予知能力は、ゲマトリア演算の応用であると……それが君たちビルサルドの見解だったはずだ |
星を喰う者 | (3章) | 93 | ゲマトリア | メトフィエス | エクシフ | ゲマトリア演算というテクノロジーが、我々に高次元存在との接触を実現させたのだ。 |
星を喰う者 | (3章) | 124 | ゲマトリア | 管制官 | 地球人 | メインフレーム内部のゲマトリア演算回路が、見たこともないコードを出力しています |
星を喰う者 | (3章) | 127 | ゲマトリア | 管制官 | 地球人 | メインフレーム内部!ゲマトリア演算結晶体! |
小説版では、完全に「ゲマトリア」で統一されていることが明らかです。さすが大手出版社の校閲というか、脚本を元にしたと思われる映画のノベライズでさえも完全に統一。
というか映画の脚本がただの表記ゆれだったことを逆説的に証明しているとも言えますね。諸行無常。
しかし所が変われば用法も変わるというわけで、前日譚小説からはゲマトリア演算が職業決定とかくじ引きとかにも使える便利な演算だったことがわかって面白いですね。
中にはこういった気になる記述も。
エクシフが用いるゲマトリア演算が、古代ヘブライの数秘術と同じ名前を持っているのをただの偶然と思うかね? (『怪獣黙示録』p.171)
つまり、エクシフによる有史以前からの干渉によって古代ヘブライ人の数秘術が「ゲマトリア」と名付けられたと……え??????
因果循環!世界が壊れる!!破局!!!!!!!
4.コミカライズ
なんだかよく分からなくなってきたところで、もう一つのメディアミックス展開であるコミカライズを。
倉橋ユウス『GODZILLA 怪獣惑星』(1)~(2)は第2章公開直前から「少年ジャンプ+」などでオンライン連載され、第1章から第2章冒頭までを漫画化。ストーリーは基本的に映画と同一です。
巻 | 映画の章 | ページ | 単語 | 発言者 | 種族 | 記述 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | (1章) | 38 | ゲマトロン | エンダルフ | エクシフ | ゲマトロン演算による未来予測は思わしくない |
1 | (1章) | 39 | ゲマトロン | エンダルフ | エクシフ | ゲマトロンの導きに距離と時間の枷はない |
1 | (1章) | 42 | ゲマトロン | マルコ | 地球人 | ゲマトロン演算上では問題ないとか |
1 | (1章) | 45 | ゲマトリア | ガルグ | ビルサルド | だがこの解析はお前らのゲマトリア演算あってのこと 当時の地球人には無理な相談さ |
1 | (1章) | 46 | ゲマトロン | 管制官 | 地球人 | ゲマトロン演算卓・重力コイル制御卓起動 |
1 | (1章) | 46 | ゲマトロン | メトフィエス | エクシフ | ゲマトロン演算結晶体と中央AIとのクラスター接続開始 |
1 | (1章) | 49 | ゲマトロン | 管制官 | 地球人 | ゲマトロン予言座標突入 通常推進機関停止 |
1 | (1章) | 49 | ゲマトロン | メトフィエス | エクシフ | ゲマトロン演算子全て揃いました 全無理式を整数変換 |
2 | (1章) | 107 | ゲマトリア | ハルオ | 地球人 | ジョシュ! ゲマトリア解析で震源地を計測だ! |
小説とは対照的に、「ゲマトロン」「ゲマトリア」が映画本編の用法を完全に踏襲する形で混在しています(漫画媒体なので微妙に言い回しが違う)。コミカライズとしてはパーフェクトな態度といえます。
いや、もうわかんねえな。
5.結局のところなんでなのさ~アニゴジ制作過程からの考察
いかがでしたか? わかりませんでした! ……などと締めてしまっては考察ブログとしての名折れ。
以下では、いくつかの断片的な証拠からたどり着いたある仮説を紹介します。
まずは、そもそもこのアニゴジ3部作が意外に複雑な制作過程を経ていることから話をはじめなくてはいけません。
アニゴジ3部作(2017-18年)の製作はシン・ゴジラ(2016年)と同時並行で2014年頃から進んでいたことが監督インタビュー*4から知られています。製作には実に4年以上もかかっている上、その製作スタイルもやや特殊でした。
パンフレットやBD特典の『瀬下監督スケッチ集』にはデザイン画などに日付が書かれているものがあり、主なものを拾うと以下のようになります。
時期 | 事項 | 出典 |
---|---|---|
2014年頃 | 企画立ち上げ | |
2015年3~6月頃 | ストーリーイメージボード類 | 瀬下監督スケッチ集1 |
2015年4月 | ゴジラ・イメージボード | 瀬下監督スケッチ集1 p2 |
2015年8月 | ゴジラ・デザイン方針 | 第1章パンフ p32 |
2016年前半頃? | プレスコ | |
2016年5月 | メカニックデザイン(7月に決定稿) | BDブックレット1 p15 |
2016年8月 | フツアキャラデザ | 第2章パンフ p19 |
2016年10月 | 植物バリエーション案 | 瀬下監督スケッチ集1 p11 |
2017年1~3月 | 3章シーンスケッチ | 瀬下監督スケッチ集3 |
さらには通常は作画IN後に行われるアフレコを、作画に先立って行うプレスコ方式が取られていたことが本作の特徴で、その時期は2018年5月のインタビュー*5で「2年前」と言及されているため、2016年前半と考えられます。総合すると、
- 2014年に企画立ち上げ
- 2015年前半までに大まかな方針が確定、同年脚本執筆
- 2016年にプレスコ、同時にデザイン等が決定
- 2017年に掛けて実制作開始
という制作過程が推定されます。
さらに、時期は不明ながら本作の構成自体が途中で大きく変わったことが示唆されています。
虚淵 全体のストーリーをどういう形でアウトプットするのか、という部分が二転三転したんです。(略)特に第二章がその調整を大きく受けているんですが(略)
瀬下 第二章は(略)構成自体を変えなきゃいけない部分が多くあったんですが、映像制作側のキャパシティの都合も考慮する必要があって、現場判断でものすごく切り貼りしているんです。だから虚淵さんも、修正した構成を最終監修するにあたってはいろいろ悩まれたんじゃないかと思いました。 (第3章パンフレットp.09 瀬下・静野・虚淵氏対談より)
脚本完成以後、恐らくは制作が開始された頃に全体的な構成が見直されたようです。その変更内容については、第3章パンフに収録された瀬下監督のスケッチ「フツアの村全図」(pp.12-13)にヒントがあります。
※旧3章のフツア達がメカゴジラシティを遠望している場所(略)
※2章~3章(新2章)でハルオと合流したアダムやユウコ達は、(略)
つまり、現在の第二章(決戦機動増殖都市)はもともとは「2章~3章」であったとわかります。想像するならば全4~5部の構想だったものをどうにか3本の映画にまとめ直す作業が行われたようで、なるほど第1章が部分的に間延びしたりしているのはそのせいか、と合点がいきます。
とにかく、まとめると以下の点が指摘できます。
- 制作は4年もの長期にわたった
- プレスコ方式がとられ、収録から公開まで2年もの月日がかかった
- 企画自体も、途中で大きな構成の変化を余儀なくされた
そういった事情もあってか、制作が進んだ段階でセリフをさらにアフレコすることが行われています。
静野 (略)『GODZILLA』は一度プレスコでセリフを収録した後、映像が完成に近づいたところで、さらにアフレコを行う形で制作していました。その過程で必要になったセリフを虚淵さんに加えていただくんですが、(略)
(前掲第3章パンフレット3者対談より)
その追加アフレコの様子については、マイナ役上田麗奈さんのインタビュー*6から知れます。
上田 (略)プレスコでの収録だったので、追加撮りも多かったんです。追録の度にシナリオの細部が変わっていたんです。(略)
つまり、アニゴジの制作が進むなか何度かの追加アフレコが行われ、その過程でシナリオも少しずつ変えられていったと言えるでしょう。
結論
というわけでゲマトロン・ゲマトリア混在問題に対する仮説の結論は次の通りです。
- 最初に完成した脚本では、ゲマトリアだった。その脚本でプレスコが行われた。
- その後(恐らく実在のゲマトリアと被ってはまずいという判断で)ゲマトロンへ改められた。
- 追加アフレコ分は、すべてゲマトロンで収録されたが、プレスコ分の修正は行われなかった。
- パンフレットは変更後に執筆されたため、ゲマトロンで統一された。
小説その他メディアミックスについては、次のような事情が考えられます。
- どういうわけか、脚本では混在が改められていなかった*7。
- 小説版では脚本を反映してゲマトロン・ゲマトリアが混在していたが、角川書店の校閲の手によって全てゲマトリアへと統一された。
- 漫画版もまた脚本を反映して両者が混在したが、特に統一はされなかった。
以上!!!
結局つまらない結論だったな……
*1:そういえばSPにもなんか凄い計算で未来がわかるやつ出てきましたね。そっちは原理が明らかにされてますが
*2:元は「決戦機動増殖都市」公開にあわせゴジラ・ストアTokyoで配布された小冊子。パンフ収録にあたり図などが増補されている。後に縮刷版がBDにも封入
*3:パンフやBDへの再録はなかった
*4:ゴジラ:アニメ版は「ご神木のような存在感」 瀬下監督に聞く製作の裏側 - MANTANWEB(まんたんウェブ)https://mantan-web.jp/article/20171116dog00m200019000c.html
*5:【インタビュー】宮野真守、「GODZILLA」共演声優は気心の知れた“戦友” | アニメ!アニメ! https://animeanime.jp/article/2018/05/18/37801.html
*6:映画『アニゴジ』マイナ役・上田麗奈さんインタビュー | アニメイトタイムズ https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1541728268
*7:前日譚小説の執筆時期については、著者と監督の対談(『GODZILLA 怪獣黙示録』ベストセラー御礼対談!! | カドブン)で2017年4月のANIME JAPAN以後であると確定している。さすがに脚本のゲマトロン改訂以後であろう。