セブンガーファイト配信開始!!!!!!!
ウルトラファイト - TSUBURAYA IMAGINATION
先日『ウルトラ○○○○ファイト ~後継作品全話総覧~』という同人誌を書きましたが、その際に本家「ウルトラファイト」を見返したら色々と発見があったのでまとめた記事です。本当は同人誌のコラムか何かにするつもりでしたが、分量の関係や、途中で構想が膨らんだことから、ブログ記事数本に分けて流します。
- はじめに/時期区分について<本記事>
- 着ぐるみのバリエーション
- 撮影日程についての一考察
- ロケ地の変遷と「造成地」の地理的特徴
- 「造成地」はどこなのか(あるいは、だったのか)
はじめに
2020年、「ウルトラファイト」が50周年を迎えた。今更あの番組の魅力については語るまでもないだろう。1970年~71年に放送された「マン」「セブン」の特撮シーンだけを抜き出しプロレス実況風ナレーションを加えたミニ番組、言ってしまえばそれだけである。しかし、ビデオなどまだない時代、平日毎日夕方にTBSへとチャンネルを回せばウルトラが、しかもその名場面だけが流れていることの意味は、あまりにも大きかった。この結果、折からの旧作再放送で再び高まっていたウルトラ熱には更に高まり、71年4月「帰マン」の放送へ繋がったことは知られている。
ウルトラファイトの大きな魅力の一つはなんといっても「新撮編」である。低予算での番組作りを志向した円谷プロでは既存フィルムからの再編集によって「ウルトラファイト」130本を制作する予定であった(「抜き焼き編」)。ところが過程で予定本数に不足することが判明し、急遽怪獣倉庫の着ぐるみを持ち出して撮り足すことになったのがこの「新撮編」であった。テロテロの着ぐるみとたまに首の後ろが黒いセブンによる戦いは次第にストーリー性を帯びるようになり、特に最終盤にはシュールを極めた芸術作品の如き作品も撮影された。
放送は抜き焼き・新撮を織り交ぜて行われた。視聴率の好評が伝えられるとTBSはさらに65回の追加発注を行い、最終的には196話(うち125話が新撮)が制作されている。
ウルトラファイトは放送後も度々再放送が行われ、特に新撮編は90年代にかけてカルト的な人気を博すようになった。そして21世紀に入りネット上でその面白さが再発見され、ネタとして特撮ファン層以外にもその存在が知られるようになったことは読者の皆さんもご存知のことと思う。また「ファイト」の便利なフォーマットは、「ミラーファイト」(1974)を始めとする数多の後継作品群を生み出した。こちらについては同人誌『ウルトラ○○○○ファイト』で詳しく紹介したとおりである。
ところでこのウルトラファイト新撮編を振り返ってみると、その研究史の長さの一方で、意外にもわかっていないことが多いことに気づく。そもそも基礎となる放送日などにも不確かな点があり、撮影順などについてはなおさらである。この他にもスーツの差異やロケ地がどこであったかという問題については先人により考証が積み重ねられているにも関わらず、曖昧かつ断片的な情報がそのままの状態で流通しつづけている。筆者は幸いにして、今回上述の点について若干の知見を得ることができた。本稿ではそれをまとめ、ささやかながら50周年の記念としたい。
手始めとして、本記事では分析の前提となる時期区分について取り上げる。制作ナンバー順に考えるよりは、ある程度のまとまりに区分して考えることが有効であることを示す。
続く記事②においては、着ぐるみの変遷をその時期区分に則って整理する。記事③では、以上の議論を踏まえながら、ウルトラファイトがいつ撮影されたのかについて、話数単位での特定を試みる。
さらに、ウルトラファイト新撮編前半の最大の特徴といえる「造成地」について、記事④・記事⑤を通して、その地理的特徴の把握と位置の正確な特定を行い、ロケ地の過去・現在・未来についても取り上げる。
1-1.放送日の謎と制作ナンバー
よく知られているように、ウルトラファイトの放送は制作順に関わらず、ランダムな順番で行われた。ただ、正確に何話が何日に放映されたかについては現在でも不確実である。というのも、例えば新聞ラ・テ欄では5分枠番組ゆえに略記されることが多く、ましてやサブタイトルが記載されることはなかったためである。
現在、放送日について最も信頼できるデータと考えられるのがDVD-BOXのブックレット*1の作品リストである。ここに記載されている初回放送日時は円谷プロに残された五枚の手書きメモ(恐らくは同時代的に作成されたもの)に準拠したものだ。しかし同書に注記されているように、これも視聴率が併記されている第110回「必殺の四つ葉がらみ」(71年3月5日放送)までは正確と思われるものの、その後については放送順の入れ替えを示唆する別の資料が残されたり*2、別番組が放送されたはずの日付も混ざっている*3など、必ずしも確実なものではない。さらに言えば全235回の放送のうち再放送分の話数・日時は全く不明である。円谷かTBSからの新資料発掘を期待するほかないが、研究上歯がゆいことこの上ない状況である。*4
そうした事情もあってか、ウルトラファイトは放映順ではなく制作ナンバー順に語られることが多い。「マン」抜き焼き編→「セブン」抜き焼き編→新撮編という順に配列されたもので、DVD-BOX等の収録順や近年の再放送・配信でも制作ナンバー順が採用されている*5。これは円谷プロの保管するネガの順番に拠るものであり、かつ前記のメモに併記された制作ナンバーとも一致するものだという。現在伝えられている制作ナンバーについては、おそらく制作順を反映した、確実なものということができるだろう。ただし、制作ナンバーはそのまま撮影された順番と一致するわけではないことに注意が必要である。
例えば新撮編のうち最も制作ナンバーの若い№72「大峡谷の決闘!」に登場するセブンは首の後ろが銀色であるが、№72~78に登場するセブンは首の後ろが黒い。新撮編クランクインは№74「戦慄イカルスの大逆殺!」からとされているので、№72は後の撮影分から前倒しで挿入されたと考えられる。また、同じ話数であっても一度に撮影されたわけではないようだ。同じくセブンを手がかりにすると、№75「バルタン忍法セブン危うし!」では前半のカットで首の後ろが銀であるため、やはり後の撮影分から映像を流用していると考えられる。とはいえ、こうした状況は、ある程度フィルムを撮りためてから円谷プロで編集し、話数がたまった段階で納品、という制作の流れを想像すれば必ずしも不自然なものではない。
結論として、ウルトラファイトの作品的変遷を考察する上では、制作ナンバーを絶対の時系列として考えることは避けるべきである。一方で、撮影後まったくランダムに編集されたとも考えにくい。先に述べた撮影~編集~納品の流れ――例えば9月に撮影された分が10月に編集・納品され11月に放送されるというような――を考慮すれば、制作ナンバーの流れに沿いつつ、ある程度のまとまりに分けて分析することが有効ではないかと考えられる。
1-2.4つの指標による時期区分
そこで本節では以後の議論のため、便宜的にウルトラファイト新撮編を時期区分することを試みる。区分の指標としては、編集上・撮影上の客観的な特徴として以下の4つを考える。
(a) 大まかなロケ地の変遷・天候の変化
(b) セブンや登場怪獣の着ぐるみの変化
(c) 登場怪獣の顔ぶれ変化
(d) オープニング曲の変化
(a)ロケ地の変遷・(b)着ぐるみの変化については、②着ぐるみのバリエーションおよび④ロケ地の変遷においてさらに詳しく分析する。
さて、以上の4指標を各話について整理した結果を【表1-1】に示した。複数の指標の変化が明らかに同時に起きていることから、ウルトラファイトはおおまかに6つの期間に分けると分析の見通しがよくなりそうである。
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※右にあるサムネをクリックすると、【表1-1】をどこでも見ることができます
以下、各期の区分根拠およびその特徴について述べ、各区分について放送時期などその他の共通する特徴を取り上げよう。
第Ⅰ期 制作№72~91(20話)
最も初期に撮影されたと思われる話数群である。基本的には同じ造成地で撮影されており、登場するセブンの後頭部は黒い(仮称・黒首Aタイプ)。オープニングは全て「進め!ウルトラマン」カラオケが使用されている。造成地での撮影分はいずれも天候が曇り(あるいは小雨)で霧がかっていることも特徴に挙げられるだろう。登場怪獣は9匹と比較的多い。放映時期は概ね70年11月中に収まっている。
第Ⅰ期のうち、既に述べたように№72および75の一部カットはセブンの首が銀色であるなど、第Ⅱ期以降の特徴がみられる。撮影時期と編集時期にある程度の開きがあることが想像される。
また、№82・83は造成地とは全く別の場所で撮影されているようだ。造成地の地面は褐色土であるが、その2話に限っては黒土の土地であり、周囲の光景も大きく異なる。初期に遠征ロケが行われたとすれば興味深い事実である。
ちなみにサブタイトルがおなじみの赤・黒の筆文字に変わるのは新撮編に入ってからなのだが、第Ⅰ期では文字が大きく画面からはみ出すことが多い。慣れてきたのか、新撮編中盤からは画面におさまるように変わってゆく。
第Ⅱ期 制作№92~111(20話)
第Ⅰ期に続けて撮影されたと思われる話数群である。第Ⅰ期と同じ造成地での撮影であるが、登場するセブンの後頭部は銀色に塗装されている(仮称・銀首Aタイプ)。№92から天候が晴れに変わっており、また同話からオープニングにドラム2・ドラム6・m22*6の三種のドラム音楽が織り交ぜられたことを根拠に区分した。
登場怪獣はほぼ第Ⅰ期と共通しているが、アギラが造成地での撮影に加入したことが特筆できる。放映日は概ね70年12月から1月初めにかけてである。
第Ⅰ期も含め、対戦カードは特定の一匹を固定して他の怪獣を順番に当てる形となっていることが興味深い。撮影日の違いを反映する可能性があるが、実証はできなかった。さらに第Ⅱ期からはセブンを交えた三匹でのファイトが基本になっているのも面白い特徴である。
第Ⅲ期 制作№112~130(19話)
№112から、一転オープニングは全て「進め!ウルトラマン」のみに変わる。ロケ地はやはり同じ造成地でセブンも銀首であるが(実は第Ⅱ期のものとは少し違う〈銀首Bタイプ〉が主に登場)、登場怪獣には大きな変化が見られる。同話からはケロニヤ・シーボーズが加入した一方で従来のレギュラーは大きく減り、ウー・イカルスを含めた四匹のみでほぼ進められる。さすがに多数の着ぐるみを持ち出すことの不便さに気づいたものだろうか。なお、この時期に登場するイカルスは従来のものとは体表の模様が異なるBタイプである。
天候は悪天続きだった第Ⅱ期までと異なり、がらりと晴れ模様へと変わる。また季節を示すものとして№123・125などにすすきが写り込んでいる。放映時期は1月から2月初めまでに全て収まっている。
№128・129には三浦半島の海岸でのロケが挟み込まれ、№130としてセブン33話からの抜き焼きが一作制作されている。当初の発注話数は130話分であることから、ひとまずここで区切りとした。
第Ⅳ期 制作№131~150(20話)
№131より、オープニングには再度ドラム音楽三種が復帰する。また同話以降またしてもセブンの後頭部は黒色へと変わっている。ただし第Ⅰ期の黒首Aタイプは首前部が銀色であったのに対し、第Ⅳ期のセブンは首全体が黒色であり、前方から見てもそれとわかってしまう特徴がある(仮称・黒首Bタイプ)。
登場怪獣はさらに絞られ、セブンとウー・エレキング・イカルス・シーボーズだけで回されるようになる。イカルスは第Ⅱ期までのAタイプに戻っているが、エレキングは首が長く顔が三角気味のBタイプに変わる。作風の寸劇性が前面に出てくるのもこの時期の特徴であろう。
この時期もまた造成地でのロケが行われているが、やや土色の明るい場所が見られるようになる。仮に従来の造成地を「造成地A」、新たな造成地を「造成地B」と呼称したい。季節を示すものとして№148・149では地面に霜が張っており、寒い時期に撮影されたことが窺える。また天候は冬晴れなのか、好天が続いている。第Ⅳ期の放映時期はいずれも2月~3月上旬である。
三浦半島撮影回3回(№144~146)も挟み込まれている。登場するセブンは黒首Bタイプで、エレキングもBタイプであるなど第Ⅳ期の特徴を持つ。前回の三浦半島回(№128・129)のエレキングはAタイプだったので、全くの別日程でロケが行われたと考えられる。
第Ⅴ期 制作№151~170(20話)
№151からの20話分がいわゆる軽井沢ロケでの撮影分である。膝まで積もった雪の中での戦いが楽しい話数群だ。
基本的にセブンは銀首(Cタイプ)であるが、例外的に碓氷第三橋梁で撮影された№151のみ黒首Bタイプである。現地で再塗装を行ったものだろうか。登場怪獣はセブンのほかウー・イカルス(Aタイプ)のほか、キーラー・ゴーロンが新登場となる。放映時期は3月から4月初め頃である。
第Ⅵ期 制作№171~195(25話)
№171から最後までがいわゆる伊豆ロケでの撮影分である。放映時期は71年5月以降である。
登場するセブンは銀首Cタイプで、登場怪獣は概ねウー・エレキング・イカルス・キーラーである。№195「激闘!三里の浜」のみバルタンが登場している。なおこの伊豆ロケ登場分のエレキングは第Ⅳ期と同じ首が長いタイプだが、斑点や造形の細部に明瞭な違いがあるCタイプである。またバルタンも初期のものとは別のスーツである。
このほか、制作終了後に№45「遊星の悪魔スペル星人」が例の理由で欠番となったため、№196が怪獣倉庫で追加撮影されている。
小括
以上、ウルトラファイト新撮編をいくつかの特徴の変化により、六期に区分した。撮影上・編集上の特徴変化が明らかに同時に起きており、また放映時期も連動していることが見て取れる。上手いことほぼ20話程度で区切ることができたが、このことは週5日×4週分、すなわち一ヶ月分をまとめて納品したことを反映している可能性がある。
各期の特徴を端的にまとめると、次の表の通りである。
制作№
主要ロケ地
天候
セブン
イカルス
エレキング
怪獣数
新顔
OP
放映時期
第Ⅰ期
72~91
造成地A
曇り/雨
黒首A
A
A
9
進め! のみ
70/11月-
第Ⅱ期
92~111
造成地A
曇り/雨
銀首A
A
A
9
アギラ本格参戦
進め!+ドラム3種
70/12月-
第Ⅲ期
112~130
造成地A
晴れ
銀首B
B
A
7
ケロニヤ・シーボーズ
進め! のみ
71/1月-
第Ⅳ期
131~150
造成地A/B
晴れ
黒首B
A
B
5
-
進め!+ドラム3種
71/2月-
第Ⅴ期
151~170
軽井沢
晴れ
銀首C
A
-
5
キーラー・ゴーロン
71/3月-
第Ⅵ期
171~195
伊豆
晴れ
銀首C
A
C
5
-
71/5月-
EX
196
怪獣倉庫
-
-
-
-
2
ゴモラ
進め!
不明
次回予告
放送日程すら実はわかってないという意外な事実。制作ナンバーも信用ならないときたからには分析しようもねえ――と思いきや、ナンバー順に追っかけていくと結構まとまった特徴があることがわかった。
というわけで、次回は今回の議論を補完する意味も込めて、着ぐるみの変遷を取り上げたい。
次回「ウルトラファイト雑考② 着ぐるみのバリエーション」! みんなで見よう。
「ウルトラファイト雑考」総目次
*1:「ウルトラファイト スーパーアルティメットBOX」〈POBE-1062/9〉ポリドール、2006年。執筆は早川優氏による。
*2:176回「みな殺しの数え歌」(制作№188、71/6/7放送予定)と177回「怪獣島異聞」(制作№180、71/6/8放送予定)が入れ替えになったという。
*3:1971年6月28日に№22「ジャミラ虫の息」が放映されたことになっているが、同日のTBSでは「テレビガイド」のち選挙速報が放送されている(田島淑樹「放送順に関する2つの資料」『ウルトラマンAGE』Vol.11、2003年。『朝日新聞』東京版71年6月28日夕刊により確認)
*4:なお、1995年発売のLD-BOX「ウルトラファイトメモリアルBOX」(〈BELL-819〉EMOTION、1995年)では、制作ナンバー順に放映されたという独自の説をとっていた。なぜそうした説が出てきたのかは定かでないが、DVD-BOXで資料に基づいた放映日が世に出されたことにより、現在この説を採用する余地はまずない。
*5:なお、80年代の再放送で用いられたリース用フィルムには制作ナンバー順とも微妙に違う順番で収録されているという(前掲『ウルトラマンAGE』11)
*6:「レッドマン&ウルトラファイト オリジナル・サウンドトラック」〈CINK-34〉CINEMA-KAN Label、2017年。ブックレット解説は早川優氏