ウルトラファイト雑考②着ぐるみのバリエーション
セブンガーファイト配信開始!!!!!!!
ウルトラファイト - TSUBURAYA IMAGINATION
先日『ウルトラ○○○○ファイト ~後継作品全話総覧~』という同人誌を書きましたが、その際に本家「ウルトラファイト」を見返したら色々と発見があったのでまとめた記事です。本当は同人誌のコラムか何かにするつもりでしたが、分量の関係や、途中で構想が膨らんだことから、ブログ記事数本に分けて流します。
- はじめに/時期区分について
- 着ぐるみのバリエーション<本記事>
- 撮影日程についての一考察
- ロケ地の変遷と「造成地」の地理的特徴
- 「造成地」はどこなのか(あるいは、だったのか)
※本記事ではシリーズ①の【表1-1】の内容を特に説明なく参照します。できれば①も読んでいただきたいですが、単独でもおそらく大丈夫です。
右に出てくるサムネをクリックすることで、【表1-1】を見ることができます。
2-1.ウルトラファイトの怪獣たち
ウルトラファイト新撮編の楽しさといえば、やはりあの個性極まるフリーダムな怪獣たちである。元々のデザインの秀逸さに加え、山田二郎節に乗って縦横無尽にファイトを繰り広げる彼らのキャラクター性こそ、まさに「ファイト」を「ファイト」たらしめるものの一つであろう。
着ぐるみに入ったのは怪獣ショーなどで活躍していた「野武士の会」のアクターたちだったという。各地で活躍を重ね気心の知れた間柄だからこそ、半ば即興の筋書きしかないなかでも自然な(?)掛け合いや殴り合いを見せることができたわけである。
さて「ファイト」新撮編には通算で14匹の怪獣(セブン含む)が登場した。何話に誰が登場したか、という情報は本シリーズ①の【表1-1】をご覧いただくとして、端的に情報をまとめてみたのが、次の表だ。
怪獣名
登場回数
登場期間
着ぐるみ種別
バリエーション数
備考
セブン
68
全期
アトラク用
6種
ウー
50
全期
アトラク用
1種
エレキング
35
Ⅴ期以外
アトラク用
3種
イカルス
52
全期
アトラク用
2種
バルタン
10
Ⅰ-Ⅱ, Ⅵ期
アトラク用
2種
テレスドン
8
Ⅰ-Ⅲ期
本編用
1種
ガッツ
7
Ⅰ-Ⅲ期
本編用
1種
くちばしが黄色に再塗装
ゴドラ
9
Ⅰ-Ⅱ期
本編用
1種
目の周りが再塗装。はさみ新造
アギラ
8
Ⅰ-Ⅱ期
本編用
1種
ケロニヤ
9
Ⅲ期
アトラク用
1種
頭部は本編用
シーボーズ
21
Ⅲ-Ⅳ期
本編用
1種
ゴーロン
11
Ⅴ期
アトラク用
1種
キーラー
25
Ⅴ-Ⅵ期
本編用
1種
胴体に黄色い模様を追加
ゴモラ
1
№196
アトラク用
1種
登場回数でいうと、やはり主役・セブンが新作編全125話中68話に登場し最多である。本シリーズ①で分類した六期分類でみると、最初から最後まで出ずっぱりである。続けて独特の愛嬌が印象深いイカルスと、狂乱の悪鬼ことウーさんがそれぞれ52・50話ずつ登場した。「ファイト」の顔の一人であるエレキングは35話と振るわない。軽井沢ロケ編(第Ⅴ期)での不在が響いたかたちだ。彼ら常連を除くと、キーラーやシーボーズが20話台に乗っているほかは意外に出演していない。セブンの舎弟アギラなんかは結構印象深いのだが、それでも10話も出ていないのだから驚きだ。
顔ぶれの選び方は、とにかく「使えるものを使う」という具合だったようだ。制作担当などを務めた熊谷健氏の回想によれば、あらかじめ営業と打ち合わせをして、怪獣ショーに出払っていないものから選ばざるをえなかった。その中でも特に動きやすいものが選ばれていくうちに、「常連」のような怪獣が出てきたのだという*1。道理で常連怪獣をみると、人型に近いものが多いわけである*2。
着ぐるみという謎
そう、ファイト怪獣のキャラクター性といえば、どうしてもあの「着ぐるみ」たちに触れないわけにはいかない。造形の怪しいアトラク用と草臥れはてた本編用が泥の中で殴り合い蹴り合う、ウルトラ本編では見られないあの独特な魅力は語るに語り尽くせない。
それぞれの着ぐるみの来歴については、DVD-BOXのブックレットや『ウルトラマンAGE』Vol.11*3、『ウルトラファイト番外地』*4コラムなどで詳しく取り上げられており、ごく簡単に上の表に情報をまとめている。アトラク用ばかりという印象があるが、なんだかんだで半数近くが本編用の流用である。ただ、そのまま使うということをしていないのが円谷流といったところだろうか。怪獣ショーなどへの出演を経たためか、色々と再塗装されたり一部が新造形だったりする。
アトラク用にしても、いやアトラク用だからというべきか、造形が本編とかけ離れていることといったらありゃしない。なんだか顔の大きいイカルス、顔が怖いウー、妙に黄色いエレキング、はさみが丸っこいバルタンなどなど……。見慣れてくるとむしろ本編のほうに違和感を感じてしまうあたり、これがウルトラファイトの味なのである。
そんな着ぐるみたちが入れ代わり立ち代わり、役柄を変え替え登場するのが新撮編なのだが、実は役柄どころか、着ぐるみ自体が入れ替わっていることもあるのである。具体的には、主役セブンに常連のエレキング・イカルス、あとはバルタンについて、複数の着ぐるみバリエーションが確認できる。
この着ぐるみバリエーションは撮影日程の比定上重要なヒントともなる。諸々の先行研究の情報と、筆者が今回得たいくつかの情報をとりまとめ、怪獣たちの秘められた真実に迫ってみたい。
2-2.エレキングA・B・C
まず取り上げるのは、ファイト随一の人気者・エレキングである。エレキングに複数種類が存在することは知られており、公式媒体ではLD-BOX解説やDVD-BOX解説において、前期型と後期型(LDではbタイプと呼称)に触れられている。
しかし実は、エレキングは3種類いる。ファンダムではある程度知られた話のようであるが、いわゆる後期型――体が黄色く首が長いタイプ――は複数の特徴から2種類に分けることができる。本稿では、登場順にA・B・Cタイプと呼称する。
エレキングAタイプ
登場話:№73, 79, 87, 92, 93, 96~101, 128, 129(13回)
最初期に登場するエレキングがこのAタイプである。第Ⅰ~Ⅱ期の造成地ファイトおよび、第Ⅲ期の三浦半島(剱崎)ロケ(№128・129)に登場した。
全体的なフォルムは3種のなかで一番本編のエレキングに近いように思われる。色はクリーム色に近い白色で、首の斑点の小ささや散らばり具合が本物とかなり似ている。
その反面、顔はどうもカクついていてローポリ感がある。ファイトエレキングの有名な特徴であるへたれた角は縦ぎみに付き、戦うたびにぷらぷらと揺れる。全体的にシワや汚れがひどく、怪獣ショーなどでの激闘の経験を窺わせる。
エレキングBタイプ
登場話:№133, 136, 138, 140, 142, 144, 146~149(10回)
第Ⅰ期・第Ⅱ期(~№111)で造成地に戦績を残したエレキングは、第Ⅲ期(~№130)では三浦半島ロケを除いて休場となった。そんなエレキングが久々に造成地に復帰したのが第Ⅳ期(№131~150)である。
気合万全、新スーツを引っさげて登場したのがエレキングBタイプ。いわゆる後期型に分類され、首が長く筒のような硬質さを誇る。体色はAタイプよりも黄色が強いクリーム色である。
Bタイプの大きな特徴は顔だ。だいぶ小ぢんまりとまとまっていたAタイプと違い、キノコの傘というかおにぎり状というか、首からはみ出すほどの三角顔だ。エレキング一族のなかでもだいぶ異形の相貌を持ち、細く左右に伸びる口はなんだかニヤついているようでもある。口の中に時折のぞき穴*5のようなものが覗くこともある。角は相変わらずヘタレていることに変わりはないが、三日月部分がやや横向きぎみであることが多い。
ちなみにBタイプは造成地のみならず、三浦半島へも遠征している(№144・146)。このスーツの差異により、二回の三浦半島ロケが全くの別日程であることがわかる。
エレキングCタイプ
登場話:№171, 173, 177, 180, 183, 184, 186, 189, 192~195(12回)
エレキングは第Ⅴ期(№151~170)の軽井沢ロケ編ではまたも休場となった。満を持して再登板した最終盤の第Ⅵ期=下田ロケ編で登場したのが、第三形態となるエレキングCタイプだ。
体色はBタイプよりもかなり黄色く、安物のソフビの趣がある。その上撮影中に血糊(赤ペンキ)が付着してしまい、何話かについては脚が血みどろになっている。この差異は撮影順を比定する上大きなヒントとなる。
やはり首はBタイプと同じく硬質で長く筒状だ。顔も首からはみだした三角顔だが、Bタイプと比べると上下に伸びて釣り鐘状だ。顔だけみれば本編のエレキングに最も近い。角は完全にプラプラ状態で下に垂れ、三日月は横向きだか縦向きだかもうわからない。口の形はBタイプに似ているが少し太く、黒い縁取りがあるのが判別点である。
全体に黒の面積が大きく、縦長の大きな斑点が首に横一列に並んでいるのが特徴的である。顔の中央の黒線ももっとも太い。
***
以上、エレキング三種類について述べてきた。それぞれの特徴と判別ポイントを画像にまとめてみた。
ところで、Bタイプは首のつくりなどで次に取り上げるCタイプと類似している。しかしBタイプがCタイプへ改造されたのかというと、そうは考えられない。実は後のレッドマン(1972年)に登場するエレキングがこのBタイプなのである。つまり、本編用とは別に当時の円谷プロ怪獣倉庫には少なくとも3体以上のエレキングが存在していた*6、と結論付けられるのである。さすが人気怪獣といったところか。
2-3.イカルスA・B
ウルトラファイトのアイドルと言えば、やはりイカルスをおいて他にないだろう。本編とは似ても似つかぬ広い顔にくりっとした目、むっくりとした体は緑色に塗られ、ワイルドな胸毛が可愛い顔に似合わずセクシーだ。「ヘイカモーン!」と英語を使いこなすクリスチャンで、伊豆ロケの痴話喧嘩編では男役と女役を器用に演じ分ける芸達者でもある。
屈指の愛されキャラであるイカルスは、玩具宣伝用のプロモーションとして製作された着ぐるみが転用されたと伝えられる。実は、そんなイカルスにも二種類のバリエーションが存在するのだ。
イカルスAタイプ
登場話:№74, 80, 87~91, 96, 102~106, 119, 131, 135~137, 141~143, 147, 149, 150, 153, 156, 157, 159, 160, 162~165, 169, 172, 174, 176, 180~182, 186, 187, 189, 190, 194, 195(46回) ※№119は冒頭を除く
最多登場となるのがイカルスAタイプである。第Ⅰ期・第Ⅱ期の造成地編で主に活躍した後、第Ⅲ期ではBタイプに取って代わられた。しかし第Ⅳ期(№131~)以降に復帰し、最終盤まで戦い抜いた歴戦のファイターだ。
主な特徴は体表の模様である。井の字状の溝模様が太ももや胴体など数箇所に配置されており、本編の着ぐるみにあった腰部分の分割線はみられない。
このほか、お尻がヒヨコのようにぷっくりして可愛らしいのも判別ポイントに挙げられるだろう。
イカルスBタイプ
登場話:№112, 114, 119, 122, 125, 126, 127(7回) ※№119は冒頭のみ
第Ⅲ期(№112~130)にのみ登場する希少なイカルスが、このBタイプである。体色や顔がほとんど同じ(同じ型を使用?)ため気を抜くと見逃しがちだが、胴体部分に大きな差がみられる。
大きな特徴は溝模様がヒビ割れ状に置き換わっていることだろう。ちょうどAタイプの井の字を置き換えるような形で体じゅうにヒビ割れ模様が配される。腰部分にはベルト状の模様が加わり、胴体の模様だけみれば本編の着ぐるみに近くなっている。また、胸毛が三角形に下のほうまで伸びていることも特徴だ。
第Ⅲ期にたった7話だけ登場するBタイプだが、実は第Ⅲ期のなかでも№119での登場は冒頭のみにとどまり、主要部分ではAタイプが活躍している。これはどういうことかというと、おそらく第Ⅰ期・第Ⅱ期の未使用フィルムで主要部分を編集し、冒頭のみ新規撮影フィルムが使われたのであろう。つまり実質的な登場回数はたった6話。ちょっと哀れになってしまう不遇のイカルスであった。
2-4.バルタンA・B
ファイトでの出演こそ少ないものの、ウルトラシリーズの唯一無二の顔役・バルタンにも触れておかねばならない。マンにおける初代・二代目の差異は広く知られているが、ファイトのバルタンも二種類存在することが知られている。
バルタンAタイプ
登場話:№75, 84, 88, 92, 97, 103, 107, 110, 111(9回)
ファイトのバルタンといえばこのAタイプだろう。初代に似たマスクの反面、胴体が本編のようなウェットスーツでなくタイツなので色々なパーツがブカブカになっている。特に丸っこいはさみはマスコットキャラ的かわいさを醸し出す大きな魅力の源である。
Bタイプと比較する上で、マスクの特徴をいくつか取り上げておきたい。FRP製とみられる*7マスクの造形は初代に類似し、全体的な体色は明るい灰色である。
チープさが目立ちがちなファイト怪獣の中でも、Aタイプの半球状の目にはなんと電飾が仕込まれ、ウルトラの顔としての格を保っている。その代わりといってはなんだが針状の口吻はなぜか欠落しており、なんだか物足りない印象を与えている。
バルタンBタイプ
登場話:№195(1回)
ファイト怪獣が勢揃いした事実上の最終回・№195「激闘!三里の浜」で久々に戦場に馳せ参じたバルタンが、このBタイプだ。たった1回しか登場していないが、その手首から先の驚くべき特徴により視聴者の脳裏に深く印象を刻んだ個体である。 Aタイプと異なり肌はウェットスーツ地で、今度は逆にピチピチになってしまっている。なお得物は刀とかではなく、曲がった木の棒である。
前腕部の差異が語られがちなバルタンBタイプだが、顔もAタイプとはだいぶ異なっている。良好に映るカットは少ないが、全体として黒めの印象が残る。大きな違いは目だろう。かなり大きめかつ扁平な形をしており、黄色い塗装はあるものの電飾はない。いかにもアトラク用という感じの簡素な作りだ。ちゃんと口吻を備えているが、その周囲の目穴が大きく目立ってしまうのがちょっと残念である。
造形上の特徴は初代や二代目よりも「帰マン」のバルタン星人Jr.に非常に近い。それもそのはず、Bタイプはバルタン星人Jrと同じ型から作られた、という説があるのである*8。正確には、アトラク用として同じ型から複数のマスクが製作され、そのうちの一体がバルタン星人Jrに流用されたとされる。実際のところ目の形はほとんど同じであるし、角の穴の数が異なるところを除けば同一造形といってもさしつかえなさそうだ。
2-5.セブンは6種類もいる!
さて、最後にファイトの主役・セブンを取り上げよう。実は「ファイト」におけるセブンが何種類なのかについては、未だに定説を見ない。というより、随時塗り直しや補修が行われているため、細かい差異を上げればきりがないのだ。
さすが最多登場を誇る主役、といいたいところだが、しかしここでは敢えてその数を明らかにしたい。
まず大きな前提として、「ファイト」のセブンはいずれも本編用ではなくアトラク用とされている*9。本編では肩甲骨部分にあった電池ボックスが、入っていた痕跡も取り外された痕跡もないことがその根拠とされる。本稿でもこの考証を踏襲したい。その上で首部分および胴体の模様に着目し、さらに細かい差異を考える。
結論から言えば、ウルトラファイトにおけるセブンは大まかには5種類、少し細かく見れば6種類存在すると考えられる。
2-5-1.「黒首セブン」A・Bタイプ
ウルトラファイトのセブンといえば、なぜか首の後ろが黒いタイプが存在することで有名だ。要するにウェットスーツ地を銀色に塗装しないまま登場させてしまったわけである。ファイトのチープさの象徴(あるいは大きな魅力)として語られることの多い要素だ。
ところで、この「黒首セブン」にも2種類が存在することをご存知だろうか。まずはそれぞれを「黒首Aタイプ」「黒首Bタイプ」と識別し、差異を明らかにしよう。
黒首セブンAタイプ
登場話:№73, 74, 75, 76, 77, 78(6回) ※№75は後半のみ
新撮編の初期(=第Ⅰ期)に登場するセブンが黒首Aタイプである。悪天候や慣れていない段取りなどとともに、ファイトのチープ感を印象づけた個体といえるだろう。
黒くなっているのは耳のすぐ下の後頭部のみで、比較的面積は小さい。間に細い銀の線が一本通っていることがわかる。ほかのあらゆるタイプにも共通するが、セブンの首はウェットスーツ地を複数枚重ね、その上から帯状の装飾を貼り付ける形になっている。三層あるうち二層目と、上から貼り付ける生地が塗装されず黒色のまま投入されてしまったものだろう。
本タイプの出番終了後、しばらくセブンの出番はなくなる。再登場後(№95~)は銀首に変わり、第Ⅱ期・第Ⅲ期を戦い抜くことになる。
ところで注意したいのは、第Ⅰ期のうち№72および№75の前半については、銀首セブンが登場する点である。少し後で述べるが、このことは非常に大きな論点を孕んでいる。
黒首セブンBタイプ
登場話:№131~134, 141~151(15回)
新撮編の中盤、第Ⅳ期になって帰ってきた黒首セブンがBタイプである。作風も安定し寸劇化がすすむなか、造成地で数多の激闘をくぐり抜けた。
黒首Aタイプとは黒い箇所が明確に異なっており、耳周辺の後頭部と首の全面が黒い。ちょうどAタイプをネガ反転したような具合だろうか。このため、前から見ても首の黒さがわかってしまうという大きな個性がある。基礎となる三層のうち一番下の層と上の層が黒いまま未塗装となっているものだろう。中層部分が銀色であるほか、その下に銀の帯が一本貼り付けられている。
本タイプは第Ⅳ期の三浦半島ロケのほか、軽井沢ロケ(第Ⅴ期)の最初に碓氷第三橋梁で撮影されたと思われる№151にも登場している。軽井沢ロケ編では以後銀首だけが登場することから、現地で銀首に再塗装されたものと思われる。
2-5-2.「銀首セブン」A・B・Cタイプ
以上、黒首セブン二種類について取り上げた。それでは、黒首でない普通の銀首セブンについてはどうなのだろうか。
実は、銀首セブンについても大まかには3種類、細かく見れば4種類以上のバリエーションがみられる。それぞれをA~Cタイプと呼称し、詳しい差異について取り上げてみよう。
分類の手がかりになるのは、まずはやはり後頭部から首にかけての特徴である。ただどれも銀色であることに変わりはないので、今度は体表の模様、というものも指標に加えた。
銀首セブンAタイプ
登場話:№95, 97~102, 104~111, 115(16回)
黒首Aタイプの引退後、主に第Ⅱ期(№92~111)に登場したセブンが銀首Aタイプである。相変わらず悪天候のなか、中継ぎ役として造成地ファイトを戦った。
首部分に着目すると、当然前面銀色である。といっても、前側に若干赤地が見えてしまっている(これはファイトセブンに共通する特徴でもある)。首部分の上のほうに銀の帯が一本だけついているのが銀首Aタイプの判別点である。
胴体の模様に目を向けると、背中のM字の角度は鋭く、また白線は細めである。この特徴は黒首Aタイプと共通するので、おそらくは黒首Aタイプが再塗装されたのが銀首Aタイプということができるだろう。
銀首セブンBタイプ
登場話:№72, 75, 118, 121~123(6回) ※№75は前半のみ
実は、銀首Aタイプと並行して、もう一種類のセブンが登場している。それが銀首Bタイプである。第Ⅰ期の一部話数および第Ⅲ期(№112~130)に登場した。
銀首Bタイプの首部分はAタイプと似ているが、銀の帯が2本に増えているのが判別ポイントである。セブン本編に登場するスーツでもこの帯の数は1本か2本か一定せず(概ね前半期が2本、後半期が1本)、アトラク用にも反映されたものだろうか。
ただ、これだけではAタイプに装飾が加えられた同一個体、という可能性も残る。しかしここで胴体背面の模様を御覧いただきたい。
№72に登場した銀首BタイプのM字の角度は緩やかであり、かつ白線は太めである。M字の角度は姿勢やスーツのたるみにより変わることがあるとはいっても、銀首Aタイプとの違いは明瞭といえる。
結論として、銀首Aタイプと銀首Bタイプは模様の違いなどから全くの別個体であると考えられる。
となると大きな問題となるのが、主に登場する第Ⅲ期から遡って、製作ナンバー順では極初期となる№72・75にも登場していることである。撮影日程によっては同時に2体のスーツが現場に持ち込まれていた可能性が出てくるのだ。この点については次回検討したい。
特に証拠の無い個人的な感触として、Aタイプと並行して登場する銀首B/B'タイプはやや背丈が高いように思える。想像に過ぎないが、体格のせいでAタイプに入れないアクターが人数繰りの都合でセブンを担当することになり予備のスーツが持ち出された、というような事情がありそうである。
銀首セブンB'タイプ
登場話:№96、120(2回)
銀首セブンBタイプには亜種といえるタイプが存在する。№96・120で確認できるものを銀首B`タイプと呼称したい。
その特徴はずばり、首の銀帯が一本もないことである。その一方で胴体の模様はほとんど銀首Bタイプと一致するため、銀首Bタイプの首の銀帯が何らかの理由で付けられなかったものと考えられる。
銀首セブンCタイプ
登場話:№152, 159~161, 165, 166, 168~175, 185~187, 189~193, 195(23回)
第Ⅲ期の銀首セブンBタイプから第Ⅳ期の黒首セブンBタイプを経て、第Ⅴ期・第Ⅵ期(=軽井沢ロケ・下田ロケ)で活躍したセブンが、銀首タイプCである。
首部分を見ると、銀の帯は銀首Aタイプと同じ1本に戻っている。では銀首Aタイプとどう判別すればよいのかというと、判別点は胴体にある。
まず背中の模様については、M字は角度が緩やかで白線は太めであるなど、銀首Bタイプと共通する特徴を持つ。一方で、腹側の模様を見ると銀首Bタイプともまた異なっている。銀首Aタイプ・銀首Bタイプはともに、白線の分岐が胸板の直下にあるという特徴がある。しかし銀首Cタイプでは、胸板から少し離れたところで白線が分岐しているのである。よって、CタイプはA・Bとはまた異なる別スーツと考えられる。
なおこの胴体の模様の特徴は、黒首Bタイプと一致するものである。すでに黒首Bのところで述べた通り、両者は同一の個体が再塗装された存在であるということができるだろう。
小括
以上、6種類のセブンについて概観してきた。判別の根拠となる特徴については次の表にまとめたとおりである。
タイプ
首
背中
腹部
登場期
登場回数
色
銀帯
M字
白線
線の分岐
黒首A
黒
1
鋭角
細い
胸板直下
第Ⅰ期
6回
銀首A
銀
1
第Ⅱ期
16回
銀首B
銀
2
緩やか
太い
第Ⅰ・Ⅲ期
6回
銀首B'
銀
0
第Ⅱ・Ⅲ期
2回
黒首B
黒
1
胸板より下
第Ⅳ期
15回
銀首C
銀
1
第Ⅴ・Ⅵ期
23回
スーツの個体という点からみると、①黒首Aタイプ→銀首Aタイプ、②銀首Bタイプ=銀首B'タイプ、③黒首Bタイプ→銀首Cタイプの三体ということになる。
簡略に流れをまとめるならば、第Ⅰ期に活躍した黒首Aタイプは再塗装され、第Ⅱ期に銀首Aタイプとして登場した。並行して銀首Bタイプが第Ⅰ期・第Ⅲ期に登場し、時には首の装飾が外されて銀首B'タイプとなった。その後、第Ⅳ期には黒首Bタイプが新登場する。この個体は軽井沢ロケに際して再塗装され、銀首Cタイプへタイプチェンジして第Ⅴ期・第Ⅵ期を戦い抜いたのである。
判別の早見表も作ったので、ぜひこれを片手にもう一度ファイト(や、セブン本編)を見直してみてほしい。
まとめと次回予告
ウルトラファイトに出てくる着ぐるみの細かいバリエーションを取り上げた。エレキングは3種・イカルスは2種・バルタンは3種類いて、セブンときたら6種類もいることがわかった。
バリエーションを考慮すると最多の登場はウーさんの50話、次いでイカルスAタイプの46話となる。なお、今回の分類はあくまで仮説だ。さらに細かく分けられる可能性はあるし、今回取り上げていない怪獣にも実はもっとバリエーションの違いがあるのかもしれない。情報は随時更新するので、もし何かご存知であればコメント欄とかに書き込んでくれるとありがたい。
さて次回は、今回少し触れたように、ロケ日程が具体的にいつなのかという大きな問題を取り上げる。
次回「撮影日程についての一考察」! みんなで見よう。 fukurami.hatenablog.com
「ウルトラファイト雑考」総目次
*1:以上、「ウルトラファイト スーパーアルティメットBOX」(ポリドール、2006年〈POBE-1062/9〉)ブックレット(執筆:早川優)および「華麗なる遺書②「ウルトラシリーズ」の栄光と「ウルトラファイト」の苦悩・前編」(『ウルトラマンAGE』Vol.4、2002年)
*2:ガッツやケロニヤも人型だが、前者には頭が重く不安定という問題があり、後者は頭が別物(アトラク用に本編用)なので取れやすいという問題があったようだ
*3:田島淑樹「怪獣たちの横顔 新撮影編」『ウルトラマンAGE』Vol.11、2003年
*4:唐沢なをき『ウルトラファイト番外地』KADOKAWA COMICS 特撮A、2006年。コラム執筆は唐沢よしこ氏。
*5:のぞき穴と書いたが、こんなところに役者の目線があるわけもなく、いったいこの一連の穴の用途は何なんだろうか
*6:DVD-BOXブックレットによれば、円谷プロには常に数体のエレキングが待機していたという。なお本作のエレキングは玩具プロモーション用に制作されたと伝えられるが、どの個体がそれに該当するのかは不明である。
*7:「ウルトラファイト座談会」(『特撮秘宝』Vol.6、洋泉社、2017年)における品田冬樹氏の発言による
*8:前掲『ウルトラマンAGE』Vol.11および前掲『特撮秘宝』Vol.6
*9:前掲『特撮秘宝』Vol.6