ふくらみ

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シン・ゴジラ「360万人疎開」の嘘と真実

シン・ゴジラに登場する「首都圏一都三県の住民360万人が疎開」という設定について、なんかどっかのアルファツイッタラーが適当なことを言いそうな予感があったので今のうちに自分なりの考察を上げておこうとおもいます。以下は2016年12月発行の同人誌『東大特撮映像研究会部誌 第壱号』に寄稿した原稿の一部です。ブログ掲載にあたり一部改めています。

 シン・ゴジラの批評をする時、誰もが使う一言がある。「考え抜かれたリアルな~」「徹底的に考証された~」などである。確かに、シン・ゴジラ劇中では本職もうなるようなディティールまで拘った、現実に即した政府の対応が描かれ、ゴジラによる被害や諸外国の対応、その他諸々が実にリアルである。しかし、よく考えてみると全然リアルじゃない、というような部分も存在する。

 そんな部分のうち、最大のものが「一都三県の住民360万人が全国に分散疎開という数字である。360万人。多いと思うか少ないと思うかは人それぞれだろうが、実は検証してみると本来あるべき数字よりかなり少ないのである。

 検証の方法を示そう。まず、ゴジラが休眠している東京駅が核攻撃の爆心になると考える。そこを中心として、「一都三県」すなわち東京・神奈川・埼玉・千葉が含まれるように円を描いてみる。

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東京駅を中心として一都三県を含むように最小半径の円を描くと、この図のようになる。ちなみに東京駅から最も遠い他県は神奈川県で、最接近距離は14km弱、最接近地点は奇遇にも丸子橋付近である。

 さておわかりだろうか、この半径14km弱の円内には、東京23区のほぼ全域が収まっている。東京都の推計によると、平成28年11月1日時点での区部の人口は938万4483人*1だそうだ。どう考えてもおかしい

 無論、次のように考えることもできる。疎開が必要な区域は円形ではないとか、疎開する人口とは行政の支援が必要な数に過ぎないとか、ゴジラのせいで600万人弱は死んだのだ、とかである。だが、どれも検証の結果、想定しづらいことがわかった。

 まず、疎開必要区域について。核攻撃は潜水艦発射弾道ミサイルを使うことがわかっている。米海軍の保有するトライデント・ミサイルに搭載可能な最新の核弾頭はW88核弾頭で、核出力は475キロトンである。爆発高度1000mとして、「核爆発被害シミュレータver2.0」を使い被害範囲を算出すると、熱放射半径(3度以上の火傷を負う範囲)が約9km。3度の火傷とは、皮下組織までの損傷で壊死や炭化を伴うことがあり、治癒してもケロイドが残るという重症である。平野であるから地形による減殺も期待できず、ほぼ円形の範囲に被害が及ぶと考えられる。ゴジラが覚醒から核攻撃までに移動する可能性を考えると、半径14km程度の円形の範囲は最低でも確保しておきたいところだろう。

 二つ目について。住民の自主避難の可能性を考えるもので、一概には否定できない。疎開といっても、必要なものはいくつかある。輸送手段(車・電車など)・輸送路(道路・鉄道)・疎開先の3つが主なものだろう。自主避難したいと思っているある家族に自家用車があったとしよう。だが、まず道路が塞がっている可能性は高い。ゴジラは東京南部を横断するように進行しており、間違いなく環八・環七などは破壊されている。開通したとしても、災害対策基本法により緊急輸送路に指定されていれば、基本的に自家用車などの通行は規制される。北の方ならば道路は破壊されていないはずなので、緊急輸送路を避ければなんとかなるかも知れない。だがそれが600万人分となればどうだろうか。当然交通の混乱が発生する。緊急物資を運ぶトラックが(もしかしたらヤシオリ作戦の薬剤を運んでいるかもしれない)その混乱で立ち往生してしまったらどうなるだろうか。政府は自主避難で混乱を招くより、行政の指導のもと計画に沿って順に運び出すことをもちろん望むだろう。また、避難先の確保も問題となる。避難する600万人全員に都合よく避難を受け入れてくれる親戚などは存在するものだろうか。核攻撃があろうとなかろうと都内は高濃度汚染が予想される。除染のため少なくとも数年間は確実に戻ることができない。避難先に与える経済的影響などを考慮しても、やはり自主避難ではなく計画的避難のほうが合理的である。輸送手段の効率的確保という面でも望ましいと思われる。

 ゴジラのせいで600万人が死んだ説について。ガメラ3で渋谷が火の海になった際、10万人以上が死亡している。ゴジラが熱線を発射したのは都心であり、劇中描写からして避難はほとんど追いついていない。火災の延焼も想定でき、10万人どころの死者ではないはずだ。だが、だからといって600万人も死ぬとは思えない。そもそも都心で勤務している人間はそんなにいない。平成22年国勢調査によれば、被害の中心となった千代田・中央・港区の昼間人口の合計は231万1346人である*2。全員死んだとしても到底足りない。勿論、区外からの通勤者もかなり居るはずだ。なお、広島の原爆投下の際、広島には35万人の人間がいたが、年末までに死亡したのは14万人である*3ゴジラからの放射性物質放出で出来たホットスポットで被爆して死んだという可能性もあるかも知れない。ナレーションでは20シーベルトという数値があった*4。毎時だとすれば、数分で死に至る線量である。だが、ホットスポットといっても広い範囲に分布するとは考えづらい。福島原発と違い、ゴジラからの放射線流放出は数分程度のことである。しかも、20シーベルト毎時というのは高い場所のことであって、そこら中に即死レベルの放射線源があるというのは考えづらい。あったとしても、600万人も殺せない。

 長くなったが、以上から、360万人疎開という数字がどう考えてもおかしいことがわかった。では360万人という数字はどこから来たのか。  実はどうやら、この数字の出処は映画日本沈没(1973)らしい。「日本沈没」は小松左京が原作で、東宝が製作・配給した文字通り日本が沈没する映画である。知らない人間は今すぐツタヤに走って見よ。この中盤で、東京が大地震に見舞われ、午後六時という発生時刻も相まって大火災も発生、多くの犠牲者が出る。この震災の様子がシン・ゴジラそっくりだったりと、日本沈没シン・ゴジラにはいくつもの相似点が見出せるがそれは別の機会に置いておく*5。で、この震災の死者・行方不明者数の合計が360万人なのである。ちゃんとテロップでドンと出るのだ。

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樋口真嗣が2006年のリメイク版を監督していたり、そこに庵野夫妻も出演していたり、庵野トップをねらえ!でかなり露骨に日本沈没パロディをやらかしていたりする辺りからもうこれは確定としか言いようがない。360万人疎開の元ネタは「日本沈没」である。ハハハ庵野!やりおるわ!だが俺は気づいたぞ!ざまあみろ!!

*1: http://www.toukei.metro.tokyo.jp/jsuikei/js-index.htm、16/12/22閲覧

*2:「平成22年 東京都の昼間人口」(http://www.toukei.metro.tokyo.jp/tyukanj/2010/tj-10index.htm)16/12/22閲覧

*3:広島市 - 死者数について」(http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1111638957650/index.html)、16/12/22閲覧

*4:17/02/11追記:『ジ・アート・オブ シン・ゴジラ』附属の台本によればゴジラからの放射線流の積算量のようだ

*5:17/02/11追記:例えば、『ジ・アート・オブ』の初期稿に登場する鎌倉の老人など。庵野作成のメモにも映画の方向性として「小松左京風」という記述がある。