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膨張し続けている

『太平風土記』翻刻・解読 (3) デマーガ

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ウルトラマンXに登場する古文書『日本太平風土記』のデマーガに関する記述についての記事です。

2016年8月にC90で発行した同人誌に掲載した「太平風土記の研究」の転載です。長いのと読者の便宜のため、複数編に分割し、順次公開していきます。目次はこちら。 fukurami.hatenablog.com

【天目亜牙/デマーガ】

登場:ウルトラマンX第1話「星空の声」

原文

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出典:X第1話の本編映像を加工して作成。

釈文

天目亜牙(でまあが)
 (てん)妖光(ようこう)(まと)いし(とき)
   ()(もや)やす(あら)ふる(かみ)
天目亜牙(でまあが)目覚(めざ)めん。
 太平(たいへい)()(ほむら)(とも)
  (ほろ)ぼさん。
天空(てんくう)より()でし(ひかり)巨人(きょじん)
 ()れを封印(ふういん)す。

現代語訳

 天が妖光を纏った時、地を燃やす荒ぶる神天目亜牙が目覚めるだろう。太平の世を焔と共に滅ぼすだろう。天空より現れた光の巨人がこれを封印する。

解説

 こちらはオーブではなくエックスに登場した『日本太平風土記』の記述である。基本的にはエックス1話の展開をなぞっているが、天が妖光を~という部分は15年前のグリーザ飛来に伴うウルトラフレアを指すので、少し時間的にずれがある。

 この『日本太平風土記』の史料が登場したのと同一のシーンでは、天目亜牙や『日本太平風土記』について記された、百科事典のような文章がXioのオペレーションルームのメインモニターに表示されていた。かなり細かい文字であるが、その内容にはかなり重要な記述があるため、努力して以下に翻刻したので、ご覧頂きたい。

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〈以下引用。表記などママ〉

□天目亜牙

『日本太平風土記』に登場する生物。
鉄の魔獣とされる。日本太平風土記自体が『古事記』同様、原本が現存せず、八世紀あたりに作られたと考えられる写本が最古のものであり、実際に起こった事象と、真偽不明の記述が混在しているため、歴史書としての真贋はまだ研究途上にあり、その存在を明らかにすることは非常に難しい。

『日本太平風土記』の記載は以下のとおりである。
❝―天が妖光を纏いし時 地を燃やす荒ぶる神 天目亜牙 目覚めん 太平の世を焔と共に滅ぼさん 天より出でし 光の巨人 これを封印す―❞

本文の記述によれば、天[空?宇宙?]より現れた光の巨人により封印されたとある。

この光の巨人については、『日本太平風土記』に度々記述が見られるもので、『古事記』や『日本書紀』などに登場する神々と共通する意見がある。

 この事から、『日本太平風土記』を研究している学者たちの見解は

弥生時代に伝わった製鉄技術の盛んな地域[北九州などを中心とした西日本地域など]と鉄を求める諸国が対立し戦争が起きたことを神話として伝えたという説
魏志倭人伝』においても卑弥呼邪馬台国を成立させる以前、諸国が対立し戦争状態にあったことが記載されている。

・政治権力にたいして鉄器生産地域が反乱を起こした事実を神話として伝えたという説
時期や反乱を起こした地域の詳細が不明ではあるが、『古事記』等にいうように実際に起こったであろう事象を神話に置き換えて伝えようとしたことからも窺えるように、何かの事件に対する記述である可能性は高い。
この場合の光の巨人とはその反乱を制した当時の権力者であると考えられる。

・『日本書紀』など複数の日本神話に登場する製鉄・鍛冶の神、「天目一箇神」と同様のものとする説
天目一箇神」は「一目連」と同一視されているが「一目連」は龍神であるため、挿画のような姿で描かれたと考えられる。

前述の通り、『日本太平風土記』自体の真贋は不明であるが、各地に伝わる日本神話の一部として考えることが今日までの学者たちの統一した見解である。

〈引用ここまで〉

 『日本太平風土記』の性格・成立に関する重要な記述がある。また、光の巨人が『日本太平風土記』中に度々登場していることがわかる。

 さて、天目亜牙伝説に関する諸説について補足しておこう。第一・第二の説はいずれも古代の製鉄技術との関連が語られている。考古学的成果によれば鉄器は弥生時代初期には大陸から渡来しており、古墳時代までには全国的に一定の広がりを見せていた。しかし製鉄については、近年弥生時代の製鉄遺跡と言われるものが確かに九州などで出土しているが、確実に行われていたといえるのは古墳時代以後である。大陸や朝鮮半島から持ち込まれた鉄器と、国内で生産された鉄器を区別することが難しいためである。文献的には『魏志倭人伝には「木弓は下を短くし上を長くし、竹箭はあるいは鉄鏃、あるいは骨鏃なり」とあり3世紀に鉄製武器の使用が認められるが、製鉄については『日本書紀天智天皇9年(670)是歳条に「造水碓而治鉄」とあるものが最古とされる*1

 製鉄地域の中央に対する反乱というと、少しずれるが国譲り神話なども思い起こされる。ちなみに国譲りの際、天目一箇神大己貴神を祭るため作金者に任命されたという記述が『日本書紀』の一書*2にある。

 第三の説に登場する天目一箇神(あまのまひとつのかみ) は『日本書紀』『古語拾遺*3などに登場する一つ目の製鉄・鍛冶神である。荒ぶる神などではない。また一目連は三重の多度大社の祭神で、天候を掌る竜神。片目であるため天目一箇神と習合したとされている。ちなみに『灼眼のシャナ』のシャナの得物である贄殿遮那を持っていたのが宝具「天目一箇」である。

 『日本太平風土記』最古の写本は8世紀の成立ということだが、今回画面に表示されている史料がそれにあたるかというとかなり疑わしい。決定的な証拠が「滅ぼさん」の箇所で、まず有名な話だが「ん」という表記が日本語で見られるようになるのは遅い。撥音の発声自体は古くから存在したとされるが、平安時代に入っても表記は一定することはなく、「む」や「に」などで表されることがあった。「无」から「ん」の記号が生み出されたのは平安末期以降になってからのことだという*4。また濁点が「ぼ」「で」の2箇所確認できるが、濁点は平安中~後期に漢文を読む際に声調を表すために付された声点が次第に仮名文へ移入されて生まれたもので、現在のように点を2つ右肩に附す形に固定されたのは室町末期~近世のことだという。よって、この写本自体の成立は室町以前に遡ることはないと考えてよい。

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*1:以上の記述は『国史大辞典』「鉄」(川野辺歩)などによる

*2:日本書紀』に正伝とは別に収録された、異伝の神話

*3:古代の氏族である斎部氏の由緒を記した歴史書。(中略)807年に成立。(中略)国生みと、 神々の誕生神話から筆をおこし、757年の時代までのことが記述されており、斎部氏の氏族伝承をはじめ、記紀に並ぶ古代史の貴重な文献である。(佐伯有清、日本大百科全書

*4:日本大百科事典、日本国語大辞典による