ふくらみ

膨張し続けている

解題・ 『太平風土記』――性格・作成者・その伝来について

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はじめに

ウルトラマンオーブでキーアイテムとなった古文書『太平風土記』。筆者はこれまで、本編に登場した文書を翻刻し、それぞれ解説を加えてきた。 今回は、その集大成として、『太平風土記』の基本的な性格、そしてそれが一体誰によって描かれ、そしてどう現代まで伝えられてきたのかについて考えてみたいと思う。

※本記事は、単体でも問題ありませんが、『太平風土記翻刻・解説シリーズ(1)~(6)を参照しておくとより理解が深まると思います。

全体の目次はこちら fukurami.hatenablog.com

注意:この記事は基本的に劇中描写を絶対のものとして、設定や現実的な事情は脇に置いて考察するものです。とりあえず『すごい科学で守ります!』*1を読んでおくと良いでしょう。後半はそういう方向性になります。

目次

1.『太平風土記』の基本情報
 1-1.形態
 1-2.収録順
2.『太平風土記』の性格
 2-1.本当に予言書なのか
 2-2.成立年代について
3.太平風土記は誰が書いたのか
 3-1.予言者の存在
 3-2.実際の製作スタッフ
4.『太平風土記』の伝来過程
 4-1.岸根家本の伝来
 4-2.完全超全集「現代語訳」の問題と異本の存在
 4-3.岸根家本とネット掲載本
 4-4.『日本太平風土記』との関係、そして多世界解釈
おわりに

1.『太平風土記』の基本情報

まずは、既に知られている情報をまとめてゆこう。

『太平風土記』は現在、某町の郷土資料家岸根家に所蔵されている。『ウルトラマンオーブ完全超全集』*2(以後『完全超全集』)pp.24-25によれば、幾多の怪獣について記された歴史書として研究者の間では知られており、長く原本は失われたと思われていたが、近年ネット上にそのコピー画像がアップされ、怪獣災害の情報源として用いられるようになったという。オーブ25話では、シンによって『太平風土記』が予言書であるという驚きの真実が告げられた。

オーブ劇中では、第1話からSSPの松戸シンが度々怪獣の出現の度にネットの画像を参照していた。23話で原本が郷土資料家岸根教授の手元に所在することが判明、24話でシン・ジェッタが同家に赴き、マガタノオロチ出現を受けて、岸根教授の未亡人・秋恵氏から託され、25話ではマガタノオロチを倒す切り札となった。その後ジード劇場版にも唐突に登場した(ネット画像)。なお、類似の書物として『日本太平風土記』があり、こちらはウルトラマンX第1話に登場し、デマーガの情報が記されている。

1-1.形態

『完全超全集』によれば、『太平風土記』は和装の冊子3冊から成っている。それぞれ「太平風土記 其壱」~「太平風土記 其参」と題箋が付されている。内題の有無は不明。本編に登場したのはいずれも「其壱」内の史料であり、『完全超全集』では「其壱」の該当部分を完全再現して収録している。

サイズについては、劇中の描写から美濃判サイズ(およそB4と同じ*3)と思われる。普通和装本では美濃判紙を二つ折りにし、袋とじにして使うのだが、『太平風土記』ではそのまま横使いにして綴じている。区分としては、大本にあたる。サイズゆえか綴じ方も普通見られる四つ目綴じではなく六つ目綴じである。かつて2017年正月のウルトラヒーローズEXPOにて小道具の現物が展示されたことがあり、厚さは目測で三冊いずれも1cm程度。

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ヒーローズEXPOでの展示の模様

美濃判紙をそのまま綴じたと書いたが、さらに『太平風土記』ではその紙を両面使いにしている。劇中描写および現物の観察からは、袋とじであることは確認できなかった。かなり厚めの紙を使っているものと思われ、丁寧な作りといえる。『完全超全集』にはかなり変色が進行している、とある。実際に変色が進んでいるのは確かだが、しかし虫食いもなく*4、変色はページ中央までは及んでいない。状態としてはかなり良いほうである。

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24話劇中より

現在は岸根家にて紫色の袱紗に包まれ、「太平風土記」の箋が付された桐箱に収められて保管されている。

1-2.収録順

『完全超全集』に収録されているものは劇中に登場したものの抄録版である。では、本来どのような順序であったのだろうか。それを読み取ることができるのが、ネット上の画像に付された番号である。第1話や3話で史料を見ている時の画面をよく見ると、左上に「THFDK_00012」など、画像番号と思われる文字列が描かれているのがわかる。シンが参照しているサイト*5では『太平風土記』をページ毎に画像化して掲載していると思われ、ここから元のページが判明する。対応は以下の通り。

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1話より

項目 『完全超全集』収録頁 画像番号
禍翼 4~5 THFDK_00012
禍波呑 6~9 -
禍邪波 10~11 THFDK_00025
戀鬼 12~13 THFDK_00031/00032
禍土王 14~17 -
鎌鼬 18~19 -
禍岐大蛇 20~23 -

結構間が空いているのがよくわかる。赤き鋼や大怪獣モノもこの間に書かれているのだろう。

2.『太平風土記』の性格

これまで『太平風土記』の各史料を分析する中で明らかになった、その性格をここでまとめておこう。

2-1.本当に予言書なのか

どうやら、本当に予言書のようである

マガタノオロチについての記事で述べた通り、禍岐大蛇に関する記述は完全に劇中の出来事と一致しており、かつ過去に起きたはずのない出来事が記されている。『太平風土記』に予言が記されていることに疑いはない。

これを支持する材料として、例えば禍翼(マガバッサー)に関する記述では、「巨大な怪鳥禍翼来たりて嵐呼ひ、地上のすへてを滅ほさん」と、推量「む」を用いた文があり、他の魔王獣に関する記述でも同様に、未来の出来事を描いたともとれる文が含まれている。

その一方で、禍邪波(マガジャッパ)の記述では一貫して過去形が使われており、さらに禍土王(マガグランドキング)の記述には、過去にタロウによって封印される様を描いたと思われる文(下記の史料)がなんと挿絵付きで存在する。禍翼の記述ですら、過去形と推量が入り混じっている。また、戀鬼や赤き鋼の記述は完全に過去の出来事を記したものであり、未来の出来事ととれる記述は一切みられない。

いとからたも巨きし
うち出てたる
角持ちし赤き巨人か、
土を禍々しく乱せし
巨大な魔物を、龍脈を
以て地の底に封印せり

マガタノオロチについての記事でも記したように、設定上、各ウルトラマンが魔王獣を封印したのは実際過去にあった出来事である*6

結論として、『太平風土記』には確かに予言が記されている。しかしその一方で、内容の大半は過去に起きた出来事や伝説、伝聞を書き載せたものと思われる。様々な伝説などを収集する過程で、本物の予言が入り込んでしまった、というのが本当のところなのではないだろうか。

2-2.成立年代について

現存の写本は戦国時代末~江戸時代の成立であると考えられる。現存の写本、というところで含みをもたせているが、『太平風土記』はやや複雑な伝来を持っている可能性がある。詳しくは後の章で検討する。

証拠としては、まず文字の形態がある。見て分かる通りくずし字(行・草書)である。字の雰囲気からして近世以後っぽいが、確証はない。しかしながら、少なくとも平安時代中期以降に筆で記された、ということは確実である。

次に挿絵に着目する。この挿絵は、先に紙が両面使いであると記したとおり、文字部分と年代は完全に一致すると考えられる。禍波呑(マガパンドン)の挿絵に注目してみると、城が描かれている。それも、織豊城郭に特有の天守を伴ったものである。これに加えて、禍邪波(マガジャッパ)の挿絵の人物の特徴などを見ても、風俗的には中世後期~近世のように思われる。よって、織豊城郭が出現した以後となり、年代は戦国時代末~江戸時代であると確定できる。

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禍波呑の挿絵

なお、戀鬼の項には戦国武将らしき人物と、「戦国の世」なる言葉が登場する。これらからは明らかに近世の年代が読み取れるが、実は戀鬼の項のみ筆が微妙に異なっており(戀鬼(紅蓮騎)の記事を参照)、別人により後から書き加えられた可能性が考えられる。

3.太平風土記は誰が書いたのか

結論としては、残念ながら具体的な筆者は不明である。

3-1.予言者の存在

予言をした人物と筆者が同一人物かについては確証がない。ただ、挿絵の数々が実際に現れた怪獣と非常によく似ていることから*7、予言者でない人物が書いたとしても、予言者による精密なスケッチのようなものを参照したのは確かだろう。

スケッチ、でピンときた人もいるだろう。オーブ本編には予言者が登場している。第7話・第23話に登場した霧島ハルカである*8。彼女はオーブの戦いを予知夢で事前に知り、怪獣の精密なスケッチをブログに掲載していた。彼女のような予言者がもし過去に居たのだとしたら、同様に予知夢のような形で未来の魔王獣出現を予測し、その姿を絵に残したとも考えられる。

ではその予言者は誰なのかというと、実際のところはよくわからない。

熱心なウルトラファンならば戦国時代くらいの予言者と言われて絶対に次の人物が思い浮かんだはずだ。

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そう、魔頭鬼十朗である。魔頭鬼十朗は実際にコッヴの出現を日時まで正確に予言しているらしい。だが、残念ながら彼ではなさそうだ。次の画像はガイア本編*9に登場した、魔頭鬼十朗が残した古文書である。

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魔頭鬼十朗の遺した古文書

全体的におどろおどろしく、またラテン文字と日本語が入り混じっている部分がある。文体は読み取れる範囲ではかなり現代語に近いように見え(さすが予言者である)、『太平風土記』とは異なっている。それもあるが、正直魔頭が『太平風土記』を記すほど良い人には見えない。

とりあえず不明、ということで話を進めよう。

3-2.実際の製作スタッフ

作中での作者は不明だが、現実における作者は判明する。

エンディングクレジットを確認してみよう。次のような人名が見いだせる。

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役職 人名 話数
古文書監修 中村正明 1~4・11・19・23~25話
古文書制作協力 渡部潤一 1~4・23~25話
宮崎真子 19・23話
山田敬子 23話

主に古文書の製作に携わったのは中村正明氏のようである。中村正明氏は國學院大學准教授(同大学博士課程後期満期退学)で、 近世文学(江戸戯作)、明治初期文学を専攻している*10。研究業績としては、複数の黄表紙翻刻・解題を行っている他、十返舎一九恋川春町などの研究がある。最近では『膝栗毛文芸集成』全十二巻を刊行している。

渡辺潤一氏については、国立天文台副台長としてテレビ等によく登場する方とも考えたが、結局最終話まで宇宙要素は特に無かったので同姓同名の別人だろう。宮崎氏・山田氏とともに、調べても素性はよくわからなかったが、中村氏のゼミ生か何かか、小道具としての古文書製作に長けた方であろうと想像できる。

中村氏は近世文学を研究していることもあり、当然くずし字には造詣が深いはずである*11。今回、小道具としては質の高い偽古文書が登場した背景には中村氏の存在が大きかったのではないだろうか。

しかし、中村氏が直接『太平風土記』本文を執筆したと考えるのは早計である。少なくとも挿絵については、別人の作であることが判明している。

ウルトラシリーズ他多数の特撮作品で助監督を勤め、オーブでも助監督をしている越知靖氏Twitterアカウント(@juliet3comet)によれば、イラストの多く(判明している限りで、禍翼・禍土王・禍岐大蛇・赤き鋼)は同氏が担当したといい、実際に加工前のイラストがアップされている*12。同氏の発言によれば監督からの発注により制作し、その後別の部署で修正・加工が行われたようである。恐らく、美術担当などで最終的な加工が行われたものと思われるが、現在のところ、制作工程の詳細は明らかではない。

4.『太平風土記』の伝来過程

4-1.岸根家本の伝来

オーブ25話で登場した、岸根教授宅で保管されている『太平風土記』の原本とされるもの(以後、「岸根家本」と呼称)の伝来について考えてみよう。この岸根家本は、『完全超全集』掲載の「再現縮刷版」の元になったと考えられる。

先にも述べたように、岸根家本の成立は、挿絵の特徴から戦国時代末~江戸時代のことと思われる。ただし、そのテキストまでもがその年代に作成されたということを意味するものではなく、それ以前から伝わってきた可能性は否定できない。挿絵も、元図が過去に存在し、それを写した可能性は十分にある。

その後、この岸根家本にはどこかの段階で変更が加えられたようだ。戀鬼(紅蓮騎)の記事で述べたように、戀鬼の記述はその部分のみ明らかに異筆である。詳しい経緯は不明だが、近世期に一度岸根家本には何者かが文章と挿絵を加えていると考えてよい。

加筆の後、岸根家本『太平風土記』は存在だけが伝えられ、現物は行方不明となったらしい。『完全超全集』p.24には、「最近発見された原本」「長年、その原本は失われたと思われていた」という記述がある。おそらく、この岸根家本を底本とするものか、抄録された写本などが伝えられ研究者の知る所となっていたのだろう。一方で岸根家本自体は所在が把握されていなかった。

それを発見したのが亡き岸根教授(2016年10月没)だったようだ。詳細な経緯は未だ明らかでないが、岸根家本『太平風土記』を発見した岸根教授はその内容を知ると、「禁断の書」として然るべき時まで公開してはならないと妻に言い含めたらしい。岸根教授本人は「郷土資料家」としか言及されていないが、少なくとも教授であったことは確かなので、アマチュア郷土史家のような方ではなく、しっかりとアカデミズムの地位を持っていた方のようだ。歴史マンとしてはこういう重要史料はしまい込むのではなく積極的に公開してもらいたいのだが、まあ予言書では仕方がない。

4-2.完全超全集「現代語訳」の問題と異本の存在

前節で写本の存在が想定できることに言及したが、具体的にそうした異本の存在を伺い知ることができる証拠がある。それは、『完全超全集』に掲載されている『太平風土記』の「現代語訳」と称する文章である。

既に鎌鼬呑の記事でも触れているが、この「現代語訳」には問題が多い。そもそも、「現代語訳」ではないのだ。マガバッサー以下4体の魔王獣に関する「現代語訳」ではわりとしっかり現代語訳を載せているものの、戀鬼より後はどういうわけか、文書の内容を現代語訳することなく、翻刻したまま掲載している。

しかも、その文書の翻刻には不可解な点がいくつかある。鎌鼬呑の記述で顕著だが、劇中や『完全超全集』の史料画像には一切確認できない文言が記されていたり、微妙に言い回しが異なっていたりする。マガタノオロチについても、一段落まるごと抜けおちている箇所がある*13。「※今回の現代語訳は必ずしも全文が正確に対応しているわけではありません」という注記があるにしても、度を越しているのではないだろうか。

ここから導き出される答えはただ一つ。『太平風土記』には異本が存在する。岸根家本(=『完全超全集』所収のもの)とは異なる写本をてれびくん編集部は参照してしまったのではないだろうか。

4-3.岸根家本とネット掲載本

※以下の内容はセンス・オブ・ワンダーに富んでいる*14ので心の狭い方は読み飛ばしてください。

実は、さらなる異本の存在も指摘できる。何を隠そう、ネットに掲載されていて、度々シンが見ていた『太平風土記』の画像がそれなのである。その証拠となるのが、次の画像である。

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23話でシンが確認していたネット掲載の画像である。まるでちぎれたような形になっている。ところが、『完全超全集』掲載の岸根家本では、一切欠けるところがない。つまりどういうことかというと、ネット掲載のものは、『完全超全集』の解説が言うような、岸根家本の単純なコピーではありえない。考えてもみてほしい。完全な形をした原本からスキャンしたとして、どうやったらこのように、ちぎれたような画像になるというのだろうか。とすれば、岸根家本をコピー機でカラーコピーしたもの*15が何者かによって作成され、それが保存状態が悪かったせいで途中でちぎれてしまい、そのまま状態でスキャンされ、ネットにアップされたというような経緯が考えられるのではないか。

一時はそう考えたが、それでは説明できない差異がある。次に載せるのは、放送当時にSSP公式サイト*16に掲載された禍邪波の史料画像である。

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そして次の画像は、『完全超全集』掲載の岸根家本における禍邪波の部分である。

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SSP公式サイトの画像(劇中でも同じ記事をジェッタが投稿している)は、時期から言ってネット掲載の『太平風土記』画像である。横に細長く、挿絵と文章が交互に載せられている。この画像は劇中でシンが見ていたものとも一致している。ところが、岸根家本では、その画像がページの左右に分割されてしまっている。同様に、マガバッサー、マガパンドンについても、劇中の画像では同じページにあった挿絵と本文が別のページに分割されている。一体どういうことなのだろうか*17

以前筆者は、2016年8月に太平風土記翻刻・解説(1話~4話分)を同人誌に掲載したことがある*18。その際には岸根家本の存在は知らなかったため、SSPの画像のみを参照し、横に細長いことから巻子体(巻物)ではないかと推測していた。ところが本編で蓋をあけてみると冊子だったので、ずいぶん驚いたものである。

何が言いたいのかというと、ネット掲載の『太平風土記(ネット掲載本とする)は本来、巻物だったのではないだろうか。何言っているんだ、ネットのやつと『完全超全集』の奴は筆跡まで一致するじゃないか、というツッコミはあるだろう。しかし、その筆跡の違いを乗り越える技術が日本には存在する。

影写本、というものをご存知だろうか。影写本とは「原本(底本)の上に雁皮紙(がんぴし)などの薄い紙を重ね、原本の文字の形を忠実に敷き写し(透き写し)した本。」日本大百科全書)とある。トレーシングペーパーのように、古文書の上に紙を載せて、筆を使って筆跡はおろか、カスレまでも忠実に写し取る技術である。現代でも、東大の史料編纂所ではプロの影写本技師が、貴重な古文書を影写して後世に残す仕事をしている。この影写の技術は近世以前にまで遡る。もっとも実際に影写されたのは文字自体に価値があるもの、つまり有名な書家の書状などが多かったようだが、この技術をもってすれば、筆跡までもが一致する写本を作成可能なのである。

仮説はこうだ。岸根家本に戀鬼の項目が書き加えられた後のある時点で、何者かが岸根家本を影写した。その時の写本が、巻物の形に整えられて後世に伝わり、ネットに掲載されるに至った。

あるいは、岸根家本自体が影写本である可能性もある。もともと『太平風土記』は巻物であった。それを発見した岸根教授は巻物から影写本を作成、なぜかは不明だがそれを冊子体に直し、それが現在の岸根家本である。一方の巻物はのちに鎌鼬呑のところで破損、その状態でスキャンされてネット本となった。

いずれの場合でも、ネット掲載時に怪獣ごとのトピックに分けて適宜画像が分割されたものと考えられる。

上記で挙げた岸根家本とネット掲載本の差異を矛盾なく説明するためには、この2つの仮説以外に有力な説が思い浮かばない。他にも思いついた方がいたら教えてほしい。マジレスすると結局単なる演出ミスと『完全超全集』編集の都合の複合技でしかないんですけどね……。

4-4.『日本太平風土記』との関係、そして多世界解釈

さて、真面目な話に戻ろう。ウルトラマンXには『日本太平風土記なるものが登場したが、『太平風土記』とはいかなる関係にあるのだろうか。

まず、『日本太平風土記』の性格について確認しておこう。デマーガの記事で若干触れているが、X1話でXioが『日本太平風土記』を参照している時、隣に表示された百科事典風の文章に情報がある。

日本太平風土記自体が『古事記』同様、原本が現存せず、八世紀あたりに作られたと考えられる写本が最古のものであり、実際に起こった事象と、真偽不明の記述が混在しているため、歴史書としての真贋はまだ研究途上にあり、その存在を明らかにすることは非常に難しい。

また、X超全集*19p.49には「八世紀の書物」という記述もある。

上記を総合すると、原本の成立年代は8世紀頃で、同じく8世紀に最古の写本が成立した。8世紀というと古事記の成立が712年、日本書紀の成立が720年であり、その写本がそのまま残っているとすれば国宝級だ。内容については、実際に起こった事象と真偽不明の記述が混在している、ということになる。年代こそこちらの方が古いものの、内容は『太平風土記』とかなり似ているのではないかと思われる。なお、Xに登場したものは8世紀の写本そのものではなく、室町期以後に成立した別の写本である(デマーガの記事にて論証)。

性格からは、『太平風土記』と『日本太平風土記』が同じものなのか、違うものなのかは判断できない。しかし、実は両者が同じものなのではないかと示唆する証拠が存在する。

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第3話の禍邪波の史料を眺める画面の左下に、検索のナビゲーションウィンドウが表示されているが、そこには現在表示中のデータとして「日本太平風土記」の文字が見えるのである。扱っている史料は無論『太平風土記』であるから、ここから『日本太平風土記』=『太平風土記』である可能性が出てくる。意外と知られていないのだが、古い書物には複数のタイトルがつけられることがある。例えば『平家物語』と『源平盛衰記』は異本の関係にあるが内容に一致があり、また同じ本でも、外題(表紙の題箋にあるタイトル)と内題(本文の冒頭にあるタイトル)が異なることもある。『日本太平風土記』は『太平風土記』のバリエーションあるいは別名なのではないだろうか。

両者が同じものだとすれば、どういう関係が想定できるだろうか。先に述べたように、『太平風土記』のテキスト自体がいつ成立したのかは不明である。とすれば、『日本太平風土記』の8世紀に成立したという写本(8世紀写本とする)がX世界・オーブ世界ともに存在し、そこから岸根家本およびX本編の本(Xio本としよう)が派生、オーブ世界では8世紀写本が失われてしまった、という解釈ができる。

これを補強するのが、ジード劇場版でジャグラーが『太平風土記』を見るようリクたちに言うシーンである。そこでジャグラーは「この世界に『太平風土記』はあるか?」と発言していた。つまり、『太平風土記』あるいは『日本太平風土記』は、あらゆる世界にまたがって存在するものなのではないか。そう、X~ジードの各作品は、『太平風土記』バースでつながっていたのだ!!!!

最後に、以上で分析した伝来経路を、図にしてまとめてみる。
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おわりに

なんか話が途中からものすごい方向に折れ曲がった気がするが、とりあえずまとめよう。

太古の昔地球に飛来したマガオロチの卵、そこから生まれた魔王獣をウルトラ戦士たちが封印したが、その活躍は伝説となり、各地に伝えられた。一方で、ある予言者は未来において魔王獣が復活、そして超大魔王獣が出現することを予知した。以上のような伝説や予知は、『日本太平風土記』あるいは『太平風土記』として類纂された。『太平風土記』は何度かの写本作成と喪失を経て8世紀から伝えられ、中世末~近世にかけて作成された写本が現在知られる岸根家本『太平風土記』となって、マガタノオロチ撃破につながった。

こうしてみると凄いクロニクルである。『太平風土記』は結局単なる小道具であり、先のように歪んだ解釈でないと整合的に説明できない程度には雑さが見られるが、しかしそれでも、オリジンサーガからファイトオーブまで繋がる長い長いオーブの物語の中で、一本の縦軸を通す設定として非常に有効に機能したのではないだろうか。しかも、Xの『日本太平風土記』やジードでの登場を経て(大怪獣モノも含めて)、様々な世界を貫く横軸としても機能するようになった。古文書という使いやすい設定であることを抜いても、なかなか興味深い現象といえる。

ところで、2018年7月から開始される新番組「ウルトラマンR/B」には、オーブの物語がけっこう絡むのではないかといわれている。だとすれば、『太平風土記』がまたテレビに写り、その内容に主人公たちがあれこれ頭を悩ます情景をまた見ることができるかもしれない。

さらなる『太平風土記』バースの発展を願って、本稿を閉じたいと思う。

fukurami.hatenablog.com

*1:長谷川裕一『すごい科学で守ります!』NHK出版、1998年

*2:てれびくん編集部編『ウルトラマンオーブ完全超全集』小学館、2017年。構成は間宮尚彦、執筆は大石真司

*3:現代では9寸(273mm)×1尺3寸(393mm)程度が多いようだ(はてなキーワードより)

*4:後述するように中世末~近世頃の写本と思われるが、表紙の痛みも少ない

*5:サイト名は最後まで不明だった。他にもいくつかの古文書を掲載しているようだ。

*6:ただし、オーブ10章構想に基づけば、マガタノゾーアが封印から目覚めたのは紀元前1800年の古代イシュタール文明末期であるから(『完全超全集』p.107)、それ以前ということになる。

*7:ただし、マガジャッパは挿絵では蛸のような姿で描かれ、またマガパンドンも首が2つあるように描かれているなど、異なる部分も多い。一方で本物と一致するマガグランドキングや戀鬼は、過去に実際に出現していたと考えられる。過去の記録を参照できた怪獣は似た姿に描かれたのだとすると、予言のヴィジョンはあまり正確なものではなかったか、伝言ゲームの過程で変質してしまったのではないか。

*8:余談だが、正直筆者は彼女の登場回を捨て回とばかり思っていた。地味だし。しかし考えてみれば、ホーの回は予言された未来を書き換えてしまう、という話だし、マガタノオロチの予言を乗り越えて未来へ、という最終話の展開と完全に構造が重なっている。うーん深い……(本当か?)

*9:第31話「呪いの眼」

*10:中村 正明 – 國學院大學(2018年5月17日閲覧)

*11:歴史系の筆者が読みにくかったのも当然で、文学っぽい書体なのである

*12:https://twitter.com/juliet3comet/status/754328662204309508
https://twitter.com/juliet3comet/status/757232081290211328
https://twitter.com/juliet3comet/status/757234616205914113
https://twitter.com/juliet3comet/status/828220457757270017
https://twitter.com/juliet3comet/status/874176801739644929
https://twitter.com/juliet3comet/status/974635827413184515
https://twitter.com/juliet3comet/status/976998941546856448
https://twitter.com/juliet3comet/status/984406958160494594

*13:「たとへ打ち砕かれしとても~ととまり続けむ」の部分

*14:要するに妄想まみれということである。

*15:なお古文書は強い光に当てると非常に痛むので、読者のみなさんは絶対にコピー機にかけないでほしい

*16:http://somethingsearchpeople.com。現在はドメイン失効のため閲覧不可

*17:マジレスすると完全超全集編集の都合である。

*18:福町知弘『シン・突発同人誌』東大特撮映像研究会、2016年

*19:てれびくん編集部編『ウルトラマンX超全集』小学館、2016年